世界の半導体が増益転換、10社の7~9月 需要回復で

世界の半導体メーカーの業績が復調してきた。14日までに2019年7~9月期決算を発表した大手10社の純利益は前の四半期と比べて4四半期ぶりに増益に転じた。IT大手によるデータセンター投資が回復基調で、半導体市況に底入れ機運が高まっている。次世代通信規格「5G」の商用化も追い風だ。ただ米中貿易戦争など不透明要因も多く、慎重な見方も根強い。
韓国サムスン電子や米インテルなど株式時価総額上位10社の7~9月期(一部8~10月期など含む)の純利益は前の四半期に比べて3割近く増えた。純利益額は188億ドル(約2兆400億円)と3四半期ぶり水準に回復した。中国スマホ市場の失速などをきっかけに各社は不振に陥り、4~6月期の純利益は149億ドルに縮小していた。
業績回復が目立ったのはCPU(中央演算処理装置)やGPU(画像処理半導体)と呼ぶ演算処理向け半導体を開発するメーカーだ。

「第3四半期(8~10月期)は好調だったが、第4四半期(19年11月~20年1月期)はさらによくなると予想している。その基盤となるのが人工知能(AI)だ。深層学習が大きな商機になる」。14日決算発表したGPU大手エヌビディアのジェンスン・ファン最高経営責任者(CEO)は、電話会見で自信を見せた。
8~10月期の純利益は、前年同期では27%減ったが、5~7月期と比べると6割増だった。けん引したのは、「ハイパースケール」と呼ぶ高度な計算能力を備えたデータセンター向けの半導体だ。在庫調整が進んだことに加えて、データセンター上での画像や音声認識など深層学習の利用が拡大。同社が得意とする深層学習向け半導体の販売が伸びた。
19年11月~20年1月期の売上高は28億9100万~30億900万ドルと前年同期(22億500万ドル)と比べて大幅なプラスとなる見込みだ。
野村証券の調査によると、グーグル、マイクロソフト、アマゾン・ドット・コム、フェイスブックなど米IT各社の4~6月の設備投資額は前年同期比5%増だった。19年1~3月(10%減)から回復した。インテルのボブ・スワンCEOは「クラウド企業が戻ってきた」と先行きへの期待感を示す。
後押しするのは深層学習などデータセンターの高機能化に加えて、韓国や米国で商用化が始まった5Gだ。5Gでデータ量が拡大すればデータセンター需要は増す。アマゾンなどは高性能半導体の購入を増やしている。
5G時代はスマホなどの頭脳となる演算用半導体も性能向上が必要となる。5Gスマホの頭脳を担う半導体を生産する台湾積体電路製造(TSMC)の7~9月期の純利益は前の四半期比5割増だった。黄仁昭・最高財務責任者(CFO)は「来年に本格的に立ち上がる5Gに向けて、この数カ月で顧客からの需要が盛り上がっている」と説明。19年の設備投資額を従来計画から40億ドル引き上げ140億~150億ドルとした。
半導体市場全体の約3割を占めるメモリー半導体市況もNAND型フラッシュメモリーを中心に価格下落に歯止めが掛かってきた。
ただ各社の業績は「半導体スーパーサイクル」と呼ばれた18年の水準にはまだ遠い。10社合計の7~9月期の純利益額はピークだった18年7~9月期と比べると約6割の水準にとどまる。DRAMを手掛けるマイクロン・テクノロジーが20年8月期の設備投資を前期と比べ減らすなど先行きに慎重な見方はなお多い。設備投資に積極的なサムスンも、需要増は「貿易摩擦を背景に顧客が在庫を積み増していることが要因」と指摘する。
集計対象はサムスン、TSMC、インテル、エヌビディア、ブロードコム、テキサス・インスツルメンツ、マイクロン、SKハイニックス、アナログ・デバイセズ、アドバンスト・マイクロ・デバイス。一部市場予想含む。
(増田咲紀、シリコンバレー=佐藤浩実)
関連キーワード