戸田恵梨香 朝ドラ後「どんな景色が見えるか楽しみ」
101作目を迎えたNHKの連続テレビ小説(以下、朝ドラ)。放送中の『スカーレット』(月~土8時/NHK総合ほか)主演の戸田恵梨香はオファーにより決まった。30代を迎えて表現の幅も広がるなか、朝のヒロインに取り組む心境を聞いた。

「今、撮影が始まってから約5カ月がたちました(取材時は9月)。普通の連ドラは約3カ月で撮影が終わりますが、長さを感じないくらい充実していて、とにかくあっという間。15歳から始まって、今は22歳の喜美子を演じています。現場では気づくと、笑顔になっているんですよ。朝ドラのスタッフさんとは家族みたいになれると聞いていて、『本当にそうなのかしら』と思っていましたが、みんなで励まし合って、支え合っているんだなと私も実感しています。
みなさんの笑顔でいようという心が見えるので、気持ちが落ち込むこともないです。セリフの量が膨大で、追い詰められる瞬間はありますが、共演者やスタッフさんの顔を思い出すと、それだけで頑張れる自分がいます。喜美子もきっと、周りの人を明るく照らす存在。演じる私もそうなりたいですし、まずは力強く元気に頑張っていきたいです。
水橋文美江さんの脚本は、登場人物がみんなイキイキしていて、命が宿っている言葉たちが並んでいるんです。そこが一番の魅力。楽天家のお父ちゃん(北村一輝)や優しいお母ちゃん(富田靖子)、プライドの高い照子(大島優子)や引っ込み思案の信作(林遣都)と、それぞれ役割がしっかり担われていて、構成も見事なんですよね。演出の中島(由貴)さんは、脚本に書かれていることを余すところなく撮り切ろうという気持ちが伝わってくる方。説明もすごく分かりやすくて、このチームは中島さんを筆頭に、真っすぐな方が集まっていると感じています。
幼なじみの照子と信作は、喜美子にとって家族のような存在。演じている大島さんと林さんには、撮影の都合で2カ月ぐらい会えない時期があったんですけど、滋賀の実家に帰ってきたシーンでは『やっぱりこの3人じゃなきゃ』と思いました。突然の変化を遂げた信作を、あまり驚くことなく『そういうところもあんねんな』と受け入れられる喜美子の懐の深さや、ユーモアのある性格もまた際立って。とても愛おしい2人です。
大島さんと林さんとの3人の青春時代がもう終わり、というところで、写真を撮ったんですよ。過ごした時間はさほど長くなかったのに、写っている3人がとんでもなく親友で(笑)。戸田恵梨香、大島優子、林遣都ではなく、喜美子、照子、信作だったんです。これも、作品の持つ力なのかなって。
喜美子に出会いと別れがあるので、当然撮影のなかでも共演者との出会いと別れがあって、うれしくなったり、寂しくなったり。『まだこの人たちがいてくれたらいいのに』と思う瞬間もあって、通常の連ドラでは味わえない、贅沢な時間を過ごしています」
喜美子は男ばかりの陶芸の世界で、やがて存在感を示していく。役作りのため、撮影に入る3カ月前から、陶芸の稽古をしてきた。
「陶芸は男の仕事だと言われていて、女性陶芸家は少ないとうかがっていました。なぜなんだろうと疑問だったんですが、稽古を始めて分かったのが、本当に体力仕事だということ。先生が練っている硬い土だと、私は練れなかったんです。力が足りなくて、どれだけ体重をかけても練り切れない。そのとき、陶芸の世界は甘くない、男の仕事なんだと気付いて、喜美子が陶芸家としてやっていこうと決めた決断力に驚きました。
陶芸で重要な土を練る作業は、先生によってやり方が全然違って。習得するのにも時間がかかるし、自分のそのときの体調や感情などでも変わってくる。土って全く同じものにはならなくて、指の力の入れ方1つで表情が変わりますし、2度と同じものは作れない。奥が深すぎて、これを本当に趣味で始めたら、やめられないだろうなって思います。クランクイン前には花瓶や平皿など、20点近く作って。そのうちの1つのお茶碗は、大島さんにプレゼントしました」
断捨離で朝ドラを決断!?
「陶芸は稽古をしてきたので、視聴者のみなさんに見ていただけるぐらいのレベルにはいけたかなという自負があるんですけど、焼き物への絵付けのシーンも出てきまして。そこに関してはあまり聞いていなくて、練習の時間があるのかと思いきや、本番直前に『これはこうやって、こうやります』って。演出の中島さんは『いける、あなたならできる!』って。どこからその自信が来るんだろうって思いました(笑)」
戸田は「女優としてのキャリアが今後どんなふうに変化するのか知りたくて、この作品を引き受けた」とも語った。30歳になった2018年は、出演作『劇場版 コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』が興行収入93億円で邦画No.1となり、主演した連ドラ『大恋愛~僕を忘れる君と』が最終回視聴率で13.2%を記録するなど、ヒットに恵まれた。心境の変化などはあるのだろうか。
「うーん、30代になったことが何かのきっかけに、ということは全くないです。でも『大恋愛』は、この年齢だからこそやる意義を感じました。これまでラブストーリーのオファーってほとんどなくて、職業ものが比較的多かったんです。私は若年性アルツハイマー病に侵される尚を演じるにあたって、周りの家族たちの心情をすごく大事に受け取ろうと心掛けて取り組んでいたんですけど、自分がやりたいと思っていた芝居がようやくできた、という感じでした。
女優としてのキャリアについては、『スカーレット』が終わったときにどんな景色が見えるのか、楽しみです。過去に携わってきた作品も濃密でしたし、映画だと2カ月、連ドラだと3カ月ぐらいですが、終わるといつも"果てる"んです。これまでは作品の場数を踏むことで、実力や精神が向上するものと思ってきましたが、約1年を通して『スカーレット』という1つの作品に取り組んだとき、また違う演技の幅や質の成長があるのではと思っています。
実はずっと、朝ドラと大河ドラマは敬遠してきました(笑)。やっぱり1年間同じ役を演じるのは、精神的にも大変だろうなって。でも、ちょうど思い立って身の周りの断捨離をした直後にこのお話をいただきまして。価値観や視点が変わって、『今だったらできる』って思えたんです。だから、断捨離していなかったら『スカーレット』はやっていなかったかもしれない。本当に、縁とタイミングだなって思います」
(ライター 田中あおい、内藤悦子)
[日経エンタテインメント! 2019年11月号の記事を再構成]
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