量子技術競争、日本も参戦 NTTがNASAと計算機
NTTは14日、米航空宇宙局(NASA)や米スタンフォード大学などと共同で、光通信技術を応用した新しい方式の量子コンピューターの開発に乗り出すと発表した。量子技術の開発では、日本は基礎研究では先行していたが商用化で後れをとった。グローバルな開発体制を整え、米グーグルや米IBMや中国勢などを猛追する。

研究には、光レーザー技術に強い米カリフォルニア工科大学など米国とオーストラリアの6つの有力大学とNASA、カナダの量子コンピューター関連企業の1Qビットが参加する。
NTTが開発に成功した「量子ニューラルネットワーク(QNN)」というタイプのコンピューターを基盤に、10年後の実用化を目指す。
特殊な光発信器を用いて、1周1キロメートルの輪の中に数千個の光の粒子を流す。この粒子を量子状態に見立てることで、膨大な情報を瞬時に読み取り計算速度を速められる。
グーグルなどの従来のコンピューターは絶対零度に近い極低温で動作させねばならないが、今回のタイプは常温で安定して動く。消費電力を数十分の一にできると期待される。
量子コンピューターは人工知能(AI)と並び、イノベーションを創出する両輪に位置付けられる。暗号解読など安全保障分野への応用も期待され中国は国家をあげて猛追している。
日本は基礎研究では先行し、NTTも1960年代から光技術に関する研究を始めており、基礎研究を含めれば20年近い研究の末に今回の成果を得た。また、NECは約20年前にすでにグーグル方式の原理の実証に成功していたが商用化には後れをとった。
ただ汎用性に優れるグーグル方式も、実用化には20年かかるといわれ、量子コンピューターの登場には時間がかかる。
富士通や日立製作所は「アニーリング」という動作原理が量子コンピューターに似たタイプのコンピューターを商用化した。富士通は東レと創薬開発に利用し始めた。NECも同種のコンピューターを開発して商用化を目指す。つなぎの技術を提供しつつ量子コンピューター開発も並行して進める。
NTTはかつての電電公社と親密だったNECや富士通、OKIなど「電電ファミリー」で開発を進めてきた。
だが今は成長戦略として海外事業強化を第一に掲げ、4月、米国シリコンバレーに海外初の基礎研究拠点であるNTTリサーチを設けた。量子計算や暗号理論など次世代の基礎研究に取り組み、今後5年間で累計250億円を投じる計画だ。
Dウエーブ・システムズはNASAにコンピューターを納入し、その信頼性を世界的に高めた。量子コンピューター開発における世界での存在感を増すためにも、NTTはこれまで国内中心だった研究開発のグローバル化にかじを切り、米中の主導権争いに加わる。
「本命」にも課題多く
量子コンピューターは量子力学という物理法則を使った次世代の計算機だ。従来のコンピューターが「0」か「1」のどちらかで情報処理するのに対し「0であり、かつ1でもある」という状態(量子ビット)をつくり出し計算に利用する。膨大な情報をまとめて計算でき複雑な問題を短時間で解けると期待される。
複数の方式があり、商用化で先行したのが2011年にカナダのDウエーブ・システムズが実現した「量子アニーリング方式」だ。物流ルートの最適化など、膨大な組み合わせの中から最適な答えを見つける計算で優れた性能を発揮するとされた。
より幅広い計算に使えるのが本命といわれる「量子ゲート方式」だ。人工知能(AI)との組み合わせや材料開発、金融のリスク予測など様々な応用が見込まれている。米国のグーグル、IBM、インテルや中国のアリババ集団などが採用する。
ただゲート方式も本格的な実用化にはまだ20年前後かかるといわれ、大規模化には課題は多い。現状では決定的な優位性を示したとまではいえない。最終的に誰が市場を握るかはまだ流動的だ。
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