バイオ企業の1人当たり価値、上位3割占める
解剖 NEXTユニコーン調査

スタートアップ
ヘルスケア
2019/11/18 0:00
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ボナックには富士フイルムなどが出資。東レとは2018年、特発性肺線維症の臨床試験を始めた(福岡県久留米市)

ボナックには富士フイルムなどが出資。東レとは2018年、特発性肺線維症の臨床試験を始めた(福岡県久留米市)

バイオ・医薬品のスタートアップ企業の存在感が高まっている。日本経済新聞社が実施した2019年の「NEXTユニコーン調査」で従業員1人当たり企業価値を調べたところ、上位20社に7社が入った。金額は3億4千万円で人工知能(AI)と並ぶ。遺伝子を手軽に操作できる「ゲノム編集」など最新技術で、医療を変える役割を担おうとしている。

トップ20社のうち7社

調査で企業価値を算出した181社のうち、「バイオ・医薬品」は17社あった。1人当たり企業価値の上位20社を分野別にみると「バイオ・医薬品」が目立ち、「eコマース・ネットサービス・ソフト開発」の3社、「AI」や「フィンテック」の2社を引き離す。

世界人口が増え、治療の需要そのものが広がる。技術が進歩しており、医療サービスの供給側にとっては事業化の好機だ。

バイオブームは00年代前半にもあった。一般的な手法の化学合成による医薬品やがんワクチン、細胞への薬物伝達の技術などが事業の種だった。現在の主役は遺伝子で、病気の対象としてはがんが多い。

創薬には多額の研究開発投資が必要になる。ほかの産業にない厳しい規制が各国でかけられていることもあり、事業化のリスクは高い。

一方で、命にかかわるイノベーションには期待が大きい。製薬大手は、共同研究やM&A(合併・買収)の種を探してスタートアップに資金を投じている。

米国では上場して時価総額1000億円を超えるゲノム編集の関連企業が生まれた。同国は世界最大の医療市場で、優れた技術や製品の販売を優遇する政策が進んでおり、日本のスタートアップにとって早くから進出する必要が強まっている。

モダリスの森田晴彦CEO

モダリスの森田晴彦CEO

モダリス、ゲノム編集で難病に的

モダリス(東京・中央)はゲノム編集の技術を生かした創薬に取り組んでいる。東京大学発の先端技術と、米ボストンの拠点にいる研究者たちが強みだ。希少疾患の薬の開発につながると注目を集めている。

ゲノム編集は医療や化学に影響を及ぼす最新テクノロジーで、世界のスタートアップ企業が「クリスパー・キャス9」と呼ぶ技術を使う。ハサミの機能を果たす酵素「キャス9」が問題のある遺伝子を切断し、正常な遺伝子に組み換える。

モダリスは、この手法をベースに東大の濡木理教授が編み出した技術を活用する。ハサミの機能は取り除いて、代わりに特殊なたんぱく質によって遺伝子の働きを制御する。ハサミが大切な遺伝子を切ってしまうリスクを排除した。

特定の遺伝子が原因で起こる難病の筋ジストロフィーや、神経疾患を対象に開発を進める。森田晴彦最高経営責任者(CEO)は「狙う遺伝子を変えれば多くの疾患を治療できる」と話す。

森田CEOは経営コンサルタントを経て創薬スタートアップを設立。さらにエディジーン(現モダリス)を2016年に興した。知的財産の事業化を検討していた濡木教授との出会いがきっかけだった。

ハーバード大学やマサチューセッツ工科大学のある米ボストンの拠点では15人が働く。米国、中国出身の研究者を採用している。先端分野で勝負できる人材をいかに確保するかを重視している。

ゲノム編集技術の使用権を製薬大手に提供しており、森田CEOは「19年12月期は黒字化の見通し」と話す。21年までに米国でヒトへの臨床試験に入りたい考え。

IGS、高濃度乳房の乳がんも発見

神戸市に乳がん検診を変えようとする企業がある。2012年設立のインテグラル・ジオメトリー・サイエンス(IGS)だ。通信にも使う電磁波「マイクロ波」で乳がんを見つける技術を世界で初めて開発した。試験が順調にいけば21年秋に検診装置を発売する。

アンテナ部品を乳房にあてて動かすと、がん細胞の位置や形を数秒ではじく。1ミリメートル未満のがんも発見し、モニターに映し出す。

X線による現在の乳がん検診は、35~49歳のアジア人の8割が該当する高濃度乳房に使いにくい。マイクロ波で問題を解決し、日米欧中9カ国で基本特許を取得した。旭化成や第一生命保険が出資し、企業価値は112億円ある。

「物理学を生かし人命を救いたい」。木村建次郎CSO(最高戦略責任者)はこう考え、装置開発に着手した。神戸大学教授として物理を教え、二足のわらじを履く。

インテグラル・ジオメトリー・サイエンスの乳がん検診装置は通信などに使う電磁波で、1ミリメートル未満のがんを見つける

インテグラル・ジオメトリー・サイエンスの乳がん検診装置は通信などに使う電磁波で、1ミリメートル未満のがんを見つける

「マイクロ波で乳がんを調べるのは物理学者の自然な発想」と話す。内臓のがんは筋肉などに阻まれマイクロ波が届かない。乳房は筋肉がなく、脂肪とたんぱく質が主成分で、がんまで届く。

リチウムイオン電池の検査装置なども開発している。医療事業を軌道に乗せるには、医療機関への営業に通じた他社との協業が必要になる。

NEXTユニコーン調査で、企業価値が100億円を超えたバイオ・医薬品企業は5社あった。10年設立のボナック(福岡県久留米市)はモダリスやIGSを超えた。

病気の原因に関連する遺伝子に直接作用する核酸医薬品を開発している。バイオ薬と違い、一般の薬と同じ化学合成で製造できコストを抑えられる。遺伝子の働きを制御するため先天性、遺伝性の難病に生かせると期待され、富士フイルム住友化学が出資した。

(潟山美穂、山田遼太郎、梅國典)

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