ケラリーノ・サンドロヴィッチが放つ奇想のカフカ劇

文化往来
2019/11/14 2:00
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不条理文学の作家フランツ・カフカの作品世界に魅了された表現者は多いが、日本の現代演劇の最前線で活躍する劇作家・演出家ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)もその一人。11月24日まで神奈川芸術劇場で上演中の新作「ドクター・ホフマンのサナトリウム~カフカ第4の長編~」(作・演出、12月にかけて西宮・北九州・豊橋を巡演)は敬愛する作家への思い入れの強さが際立つ奇想天外なカフカ劇だ。

発見された小説では若い男女の物語が描かれる=引地 信彦撮影

発見された小説では若い男女の物語が描かれる=引地 信彦撮影

カフカの長編小説としていま読めるのは、没後に友人の編集者がまとめた「失踪者」「審判」「城」の3作。これと生前発表した「変身」を中心とする作品群はさまざまな形で舞台化されてきた。今回、KERAはなんと4作目となる長編小説の未発表原稿が見つかったという、ありそうでなかった大胆な設定で驚かせる。

晩年のカフカと交流があった100歳の老女の手元に残されていた原稿を、孫の男が出版社に持ち込もうとする。その小説は主人公の若い女性が婚約者の戦死の知らせを受け、生死を確かめようと戦地に向かう物語だが、もちろんKERAの創作。孫の男と友人はやがて、カフカが結核の療養のためサナトリウムにいた1920年代にタイムスリップする。

舞台では現代とカフカが生きた時代、未発表原稿に記された小説の物語が並行して描かれる。複雑に入り組んだ展開を追うのは容易ではない。だが登場人物が座る椅子などの移動と場面の切り替えを連動させる人の流れが巧みで、夢を見ているような感覚がカフカ作品の雰囲気に通じる(小野寺修二振付)。小説の主人公を演じる多部未華子が芯の強さを感じさせ、麻実れい、渡辺いっけい、緒川たまきら複数の役にふんするベテランの俳優陣に切れがある。

日本人のカフカ劇では演出家の松本修が長編3作を手がけた舞台がよく知られる。俳優との共同作業で小説を場面ごとに立体化する手法で高い評価を受けた。また英国出身の演出家スティーブン・バーコフによる「変身」は欧州や米国で上演を重ね、日本公演では宮本亜門、森山未来が身体能力を生かした演技を見せた。KERAが舞台でカフカを扱うのは3度目だが、次やその次の企画の実現も期待できそうだ。

(上原克也)

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