張本、卓球男子最年少で五輪に 強い意志支えに成長

卓球男子で張本智和(木下グループ)が16日、東京五輪のシングルス代表を確実にした。開催中のオーストリアオープンの結果、来年1月時点の世界ランキングで日本選手の中で上位2位以内に入ることが決まり、日本協会が定めた基準を満たした。男女で計6人が選ばれる卓球の五輪代表は女子の伊藤美誠(スターツ)に続いて2人目。男子では日本の卓球史上最年少の代表となる。幼い頃から数々の記録を塗り替えてきた16歳。その視線は既に来年夏に向いている。
張本は主に選考対象となる今年の国際大会のうち、8月のブルガリアオープンで優勝するなど安定した成績を残し続けた。リオデジャネイロ五輪でシングルス銅メダルを獲得した水谷隼(木下グループ)や、水谷とともに団体銀メダルの丹羽孝希(スヴェンソン)らに早くから先行。今月11日、約3週間の海外遠征に出発する際は「五輪が本番なのでそこを目指したい」と話すなど、初の代表決定を目前にしても落ち着いた様子だった。
中国出身の両親のもと仙台市で生まれ育ち、小学校時代には年代別の全日本選手権を6連覇。幼い頃から「将来の世界チャンピオン」と期待され、エリートアカデミー(東京)に入るとさらに飛躍した。
高速バックハンドを武器に、13歳だった2017年の世界選手権個人戦(ドイツ)で史上最年少の8強入り。18年1月には14歳で全日本選手権を制した。特にバックハンドで強烈な回転をかけるチキータレシーブは世界屈指で、驚異的な精度とスピードで中国の五輪金メダリストや世界ランク1位の選手も倒してきた。
シングルスの世界ランクは最高3位で、現在5位。日本勢のトップに立ち、五輪は夢から結果を残すための現実的な舞台へと自然と変わったのだろう。昨年夏の段階で、張本は冷静にこう話していた。「けっこう代表が近づいていると思うけれど、僕はシングルスで第4シードまでに入りたい」
五輪のシングルスの出場枠は各国・地域で2人まで。その組み合わせは直前の世界ランクで決まる。現状では上位2人を最大の難敵である中国選手が占める見通しで、第3か第4シードを確保できれば準決勝まで中国選手と当たらない。メダル獲得に向け、日本代表が決まる20年1月以降も気が抜けない戦いが続くことをこの頃から念頭に置いていたというわけだ。
「周囲が止めるまで練習をやめない」(日本代表の倉嶋洋介監督)という猛練習が、周囲の想像を超える成長の土台だ。最近は下半身のウエートトレーニングが実り、やや弱点だったフォアハンドを強化。11月に東京で行われたワールドカップ(W杯)団体戦では中国の若きエース樊振東(ファン・ゼンドン)に敗れたものの、ドライブで互角に打ち合う場面をつくった。
「引き合い(少し下がっての打ち合い)でも負けないとイメージを植え付けられた」との発言からは、五輪で大事な1点を取るために常に成長し続ける強い意志がにじむ。
倉嶋監督もこの若芽の将来性を早くから見抜き、長期的な視野で育ててきた。五輪の団体戦を想定し、18年W杯団体戦(英国)と世界選手権団体戦(スウェーデン)に続けてエースとして起用。張本も今月のW杯団体戦で強豪ドイツに2勝を挙げて勝利に貢献し、「自分が(日本チームを)引っ張っていく気持ちになれた」と強い自覚をにじませていた。
今年の世界選手権個人戦(ハンガリー)では格下選手に敗れて16強止まりに終わるなど、精神面で課題を指摘されることもある。世界中の選手が目の色を変えて挑んでくる中、五輪でも楽な戦いがないことは十分に分かっているつもりだ。
「プレッシャーが多いかもしれないが、羽生(結弦)選手や内村(航平)選手はオリンピックで期待がある中で金メダルを取っている。そういう選手になりたい」と張本は言う。8カ月余り後の大舞台では、心身ともにさらに成長した姿を見せてくれるに違いない。
(鱸正人)