柳美里、原発事故被災地で演劇連作

文化往来
2019/11/15 11:52
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愛の情景が切ない。左から長谷川洋子、浅井浩介、前田司郎

愛の情景が切ない。左から長谷川洋子、浅井浩介、前田司郎

作家、柳美里が原発事故の被災地から創作劇の発信を続けている。新作「ある晴れた日に」(「悲劇喜劇」11月号所収)で、東京の劇作家、前田司郎を演出に招き、死別の悲しみを舞台化した。

柳は福島第1原発から20キロ圏内の福島県南相馬市小高に在住し、自宅で書店を営む傍ら、倉庫を改装したスタジオ「La Ma Ma ODAKA」で演劇活動を手がけている。昨年、20代で旗揚げした「青春五月党」を23年ぶりに再開、地元の高校生や高齢者の出演で2作を上演した。

10月30日に小高で開幕し、盛岡、仙台と巡演した新作の出演者は女がひとり、男がふたり。簡素な舞台にベッドがふたつあり、女は双方を行き来する。朝食の支度といった何気ない日常の細部が描かれるが、やがて一方の男が東日本大震災の津波で海に流されたことがわかってくる。震災後に出会った別の男の求婚を女は拒絶する。

東北地方だけの上演で80分ほどの短編ながら、被災地の実感と簡潔な劇構造を兼ね合わせる舞台は秀作といえるもの。津波の被災地では幽霊をみたという話が珍しくないが、虚実の境目を能にも通じる葬送の演劇に仕立てていた。

福島県出身の長谷川洋子が震災による死のいたみを好演した

福島県出身の長谷川洋子が震災による死のいたみを好演した

主演女優の長谷川洋子は演劇教育で有名な福島県のいわき総合高校出身で、震災後の日常を劇化した学園ドラマの出演者のひとりだった。勢いよく駆けていく演技で観客の心を打った。東京の舞台でも活躍中だが、今回も被災地の喪失感をフレッシュな演技に映しだした。

柳は来年夏、劇作家の平田オリザらの協力を得て、原発事故と津波で二重の苦しみを負う被災地で「浜通り舞台芸術祭」を企画している。全線開通する常磐線の電車を劇場にする例のない「鉄道演劇」などを敢行する予定だ。被災地発の演劇からは目が離せない。

(内田洋一)

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