ボーゲル氏「反中、米の総意でない」
ベルリンの壁崩壊30年インタビュー

ヨーロッパ
2019/11/11 23:00
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米中の分断については否定的な見方を示した(10月22日、米ケンブリッジ市のボーゲル氏自宅)

米中の分断については否定的な見方を示した(10月22日、米ケンブリッジ市のボーゲル氏自宅)

1989年は天安門事件の年でもある。東アジアの専門家、エズラ・ボーゲル米ハーバード大名誉教授は中国の発展と米中対立をどう見るのか。

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――ベルリンの壁崩壊で旧ソ連が消える一方、同じ共産党支配の中国は成長を遂げました。

「中国には自信があった。ソ連と違い、ものすごい勢いで学生を欧米や日本に留学させて海外の事情を勉強した。共産党の指導下でも新しい技術を全世界から取り入れ、経済を発展させた。愛国心も育った。鄧小平氏の成功で国を統一し、地方でも生活が向上して市民の不満を抑えた」

――同じ1989年の6月には天安門事件という試練がありました。

「鄧氏はこの時期、少し間違えた。ソ連のようにはならないと兵力でデモを鎮圧しようとして失敗した。事件で米国の対中世論は厳しくなった」

――中国経済が復調したのはなぜですか。

「国際的な制裁の影響を受けて低迷したが、第2次世界大戦の責任意識もあり、日本がいち早く制裁を緩めた。92年に当時の天皇陛下が訪中したころから持ち直し、93年は13%成長に達した。日本の援助は大きかった」

――中国は2001年に世界貿易機関(WTO)に加わりました。

「加盟は誤りだったという議論が米国内にあるが、違うと思う。当時の朱鎔基氏は国内の改革を多少は手掛けた。何もしなかったわけではない」

――中国が西側資本主義に近づくとの期待は裏切られたのでは。

「米欧とまったく同じとはいかない。日本でも韓国でも、近代化が進んだ国から勉強をするのは自然だ。だが公平・不公平に非常に厳しい米国人は満足しない」

――米国などの自由主義と中国の国家資本主義が衝突し始めています。

「14億人の人口、軍の拡大、アフリカや南米との長期的な関係作り。共産主義の中国に対し、米国には多大な恐怖感がある。80年代の日本への心配より格段に大きい。ワシントンでは反中の空気は超党派で非常に強い」

――7月に「中国は敵ではない」という共同寄稿をしましたね。

「反中という『ワシントン・コンセンサス』は米国の総意ではない。100人もの専門家や要人が署名した。米世論も中国と仲良くすべきだとの意見がまだ大多数だ」

――米中のデカップリング(分断)が始まったとの見方もあります。

「それは無理だ。交通と意思疎通の手段がこんなに発展したのに、分断はできない。中国政府は自国民に色々と宣伝しているが、多数の中国人が海外旅行や留学をしている。普通の国民の世論を抑えることはできない」

――習近平(シー・ジンピン)国家主席は強力な指導者でしょうか。

「厳しいのは確かだが強いかどうかは別だ。9000万人の共産党員が同じことを言うのは無理だ。米国人がみる中国より実際は非常に複雑だ」

――政権の脆弱さも見えてきそうですか。

「指導者はそう感じているだろう。日本も低成長で難しくなった。中国も2ケタ成長から6%、そして3~4%になれば不満が強くなる。共産党も変わる可能性がある」

「鄧氏はうまくやったが、その後の習氏を含めた歴代首脳は外国にいい態度を取らず、中国は全世界に多くの敵を作っている」

――米中が協調できる余地はあるでしょうか。

「世界貿易の規則や環境保護など、違ったシステムでも協力の余地がある。よく考えて専門家を使えば悪くなりえない。トランプ大統領は取引はできても戦略がなく、大組織は動かせない。彼の後は、もう少し関係が良くなるチャンスがある」

(聞き手はワシントン支局長 菅野幹雄)

Ezra Vogel 1967~2000年に米ハーバード大教授を務めた社会学者。戦後日本の高度成長期だった79年に日本型システムの強みを説いた「ジャパン・アズ・ナンバーワン」を著し、ベストセラーになった。
 中国に関しても鄧小平氏を本格的に研究した著作などで知られ、米国の東アジア研究の第一人者といわれる。今年、日中の歴史の歩みを詳細に記した「China and Japan」(邦題・日中関係史=日本経済新聞出版社から12月発刊予定)を出版した。
 皇后さまもハーバード大留学中に参加された日米交流事業を運営するなど、日本の官界や経済界に幅広い人脈を持つ。89歳。
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