マクロン仏大統領のEUへの警告(The Economist)

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2019/11/11 23:00
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欧州が今日、存在しているのは米国のおかげだ。米国は2度の世界大戦を欧州の地で戦い、米国の外交が欧州連合(EU)の前身の創設に一役買った。冷戦中は軍事力で西欧をソビエトの侵攻から守り、ドイツ再統一を見届けたのも米国の政治家たちだった。

フランスのマクロン大統領は長年の同盟国、米国が欧州との関係を断とうとしているため欧州は、今こそ危機感をもって将来を見据えた取り組みを進めるべきだと訴える=ロイター

フランスのマクロン大統領は長年の同盟国、米国が欧州との関係を断とうとしているため欧州は、今こそ危機感をもって将来を見据えた取り組みを進めるべきだと訴える=ロイター

だがフランスのマクロン大統領は今、すべての欧州の人に、米国が欧州との関係を切ろうとしていると強く警告する。つまり、欧州大陸は「崖っぷち」に立っており、目を覚まさなければ「自らの運命をコントロールできなくなる」と訴えている。

エリゼ宮(仏大統領府)で本誌(エコノミスト誌)とのインタビューに答えたマクロン氏は絶望的な言葉を使って、欧州の現状をこう説明した。北大西洋条約機構(NATO)は現在、「脳死状態」にある。欧州は自前の軍隊を持つ必要がある。EUは自らを単なる市場だと考えているが、政治ブロックとして行動し、それにふさわしい技術やデータ、気候変動に関する政策を持つべきだ、と。

歴代の仏大統領は、米国はあてにできないので欧州はフランスに頼るべきだとしてきた。マクロン氏は、前任者らのこの主張を繰り返しているだけではない。確かに欧州は米国と欧州には共通の利益があるとの信念から、トランプ大統領と良好な関係を維持すべく絶えざる努力をしてきた。だが「欧州の統合深化という理念を共有しない」人物が米大統領に就いたというのは初めのことだと強調した。そして、たとえトランプ氏が来年、再選されなくても歴史の力が長年の欧米の同盟関係を引き裂こうとしている、と指摘した(編集注、マクロン氏のNATOは脳死状態との指摘に対してメルケル独首相は「私の意見は違う。ドイツからみればNATOは国益にかなっている」と強く反論している)。

米国の優先順位は変化している。外交の軸足をアジアへ移そうとしていたオバマ前大統領は、シリアのアサド政権が化学兵器を使用しても罰することはせず、米国が中東への関心を失いつつあることを示唆した。トランプ氏は10月、米軍をシリアから撤収し、過激派組織「イスラム国」掃討で連携してきたクルド人勢力を見捨てた。

これは米国の中東への関心の低さを改めて浮き彫りにしただけでなく、NATOを弱体化させることにもなった。米国は、同盟各国に事前に通告することなくシリアから撤収し、NATO加盟国のトルコが、その直後シリアに派兵したからだ。マクロン氏は、「欧州は、戦略的にも政治的にも問題を抱えていることを認識すべきだ」と指摘する。

加盟国への攻撃は全加盟国への攻撃とみなす集団的自衛権は、NATOという同盟の信頼性の根幹をなす概念だ。だが、これが今も機能しているかとの問いには、マクロン氏はわからないと答えた。同氏は、NATOが現在、展開している軍事活動や訓練はうまくいっているが、欧州の加盟各国は「米国がどれほど関与する気があるのかという観点からNATOの現実を再評価」する必要があると指摘する。

マクロン氏によると、欧州は今後、いかに大きな困難が待ち受けているか理解していない。いまだに商業と貿易だけが世界に平和をもたらすと思っているが、世界貿易の守護者たる米国が保護主義に傾き、欧州と国境を接するロシアやトルコなど各地で独裁国家が勢いを増している。

米国と中国が人工知能(AI)をハードパワーに不可欠な要素と考え、その開発に莫大な資金を投入する一方で、欧州は産業界に発言力を与えすぎている。欧州は動きが鈍く、危機感に欠けるが、今こそ、目を開き、今後やってくる容赦なき世界に向けて準備すべきだとマクロン氏は警告する。

欧州の中道派の政治家で、国際主義者を自認するマクロン氏が描く欧州の将来は驚くほど暗い。だがその見解はいつになく考え抜かれており、同氏としては欧州はすぐ行動に移す必要があるという。だがその内容は、欧州にすさまじいまでの大きな変化を求めるものだ。

まずは防衛面だ。マクロン氏は自らが提案したフランス主導の「欧州介入イニシアチブ」と、欧州防衛基金が拠出する「常設軍事協力枠組み(PESCO)」によって、各国の軍事活動を統合すれば軍事力を増強できると考えている。これは、NATOをもはや当てにできなくなる欧州の今後の新たな防衛体制の基礎になり得ると考えているようだが、これらの各国間の協力体制の構築はまだ始まったばかりだ。

米軍が欧州から撤退すれば防空体制からミサイル防衛、情報収集、監視活動、空中給油など様々な分野で大きな穴があく。米国の軍事予算は、他のNATO全加盟国の軍事予算の合計の2倍に上る。だが、欧州各国は他に優先すべき政策があり、この軍事予算の不足分を埋めることには消極的だ。むしろ欧州を防衛しつつ、米国にとってもより有益な方向にNATOを変える方が簡単かもしれない。

次の改革分野は外交面だ。マクロン氏は、欧州が世界的な影響力を確立する最善の方法は米国と中国という超大国間の仲介役を果たすことだ。その役割は「全世界が火事(紛争)になるのを防ぐ」ことだという。その第一歩はロシアとの関係を改善し、域内を安定させることだが、これには10年かかるかもしれないと本人も認める。

しかしこの野心の達成には、EUではめったに実現できない加盟各国間の目的を一致させることが必要だ。加盟国の多くはハードパワーを避け、人権やビジネスに焦点を当てた外交政策をとりがちだ。マクロン氏のロシアに関する提案が示すように、パワーポリティクスではとんでもないと思っている相手とも関わらなければならない。

マクロン氏は欧州の価値観を広めるには現実主義の政治が必要だとするが、他の欧州の指導者が同じように考えるかは不明だ。

第3の改革分野は産業政策だ。マクロン氏は国が重要な技術については戦略的決定を下すことで、EU域内から世界トップクラスの企業を生み出すことを目指す。だがこうした政策の下では、政治家とつながっている既存企業に資金や契約が流れやすい。競争を促す方が技術分野で活発な生態系を作り出せる。

EUは独特の組織だ。覇権を持たない国同士の取り決めが平和を保つ。だが27の加盟国(と離脱しようとしている大国の英国)から、十分に機能する軍隊創設への合意を取り付け、さらにその軍隊を使う可能性があると欧州を敵視する国々を確信させられるだろうか。

マクロン氏を批判する人々は彼が「権力に酔っている」と言う。ポーランドやバルト3国などは、米国と袂(たもと)を分かちロシアとの関係改善を目指す考えを警戒するだろう。ドイツやイタリア、スペインなどは内政問題に忙殺され、地球規模のビジョンを持てずにいる。

欧州は過去に自らの存在感を世界に何度も真剣ぶって訴えてきたが、どれも中身がなかった。今回こそは内容を伴う必要がある、とマクロン氏は語る。彼は他の欧州の指導者らに、米国との強固な同盟なしでどう危険な世界で繁栄できるのか、想像してほしいと訴えている。ロシアとどう関わるか、中東や北アフリカで広がる紛争や宗教原理主義にどう対応し、強権的な中国の挑戦にどう立ち向かうのか。欧州は彼の問いに答える必要がある。

(c)2019 The Economist Newspaper Limited. November 9, 2019 All rights reserved.

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