計測技術エビ養殖にも 日本特殊陶業、脱・プラグ依存
ナゴヤの名企業 新戦国時代 第4部 窯業(2)

2019/11/12 6:30
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エンジン点火プラグでグローバルシェア4割を握り世界最大手の日本特殊陶業が新事業開拓を急いでいる。プラグを含む自動車関連売上高が全体の8割超を占めるが、点火を必要としない電気自動車(EV)の普及を前に、プラグ「一本足」からの脱却を迫られている。エビ養殖や電池といった新分野に挑み、長年の懸案を払拭しようとしている。

エビ養殖場で水質センシング計測器の実証実験をしている(岐阜県瑞浪市)

エビ養殖場で水質センシング計測器の実証実験をしている(岐阜県瑞浪市)

岐阜県瑞浪市のJR瑞浪駅から車で15分。黒い巨大な水槽がいくつも並ぶ場所がある。陸上養殖事業を手掛ける農業生産法人ハイランドファーム東濃(岐阜県瑞浪市)の協力を得て、日特は10月から開発中の水質センシング計測器の実証実験を始めた。縦8~10メートル、幅4メートルの水槽4基の中で約10万~15万匹のバナメイエビを養殖している。

通常と違うのはエビの多さだ。ハイランドファーム東濃の伊藤浩・生産部長は「通常では考えられない倍以上の過密さだ」と話す。過密養殖は水質悪化や酸欠を引き起こしやすい。この計測器を使うことでアンモニアやカルシウムなどを測り、水質や温度を管理する。

日特は陸上養殖の管理システムに参入するため、2月にソフトウエア開発ベンチャーのウフル(東京・港)と資本・業務提携契約を結び、約2億5千万円を出資した。ウフルが持つあらゆるモノがネットにつながる「IoT」のシステムと、日特の排ガス酸素センサーで培ったセンサー技術を組み合わせることで、計測器の開発が可能になった。

事業開発事業部マーケティング部の竹広洋児主管は「現状の計測器の完成度は7割程度だが、製品化できればカニやヒラメなど他の魚介類の養殖にも展開を広げたい」と話す。計測器は20年秋の量産を予定している。

プラグからエビ養殖まで手を広げる日特は新技術や新規事業の開発を積極化しており、専門性のある人材に狙いを絞った中途採用にも力を入れている。竹広氏もセンサー技術を買われて制御機器大手から18年4月に転職し、新規事業開発を任されている。

ベンチャーラボでは中核技術を映像で紹介する展示室も設けた(東京都港区)

ベンチャーラボでは中核技術を映像で紹介する展示室も設けた(東京都港区)

「時代の熱や激しい変化を直接感じて挑戦していきたい」。9月に東京・港に開設した国内初となる新規事業の開拓拠点「ベンチャーラボ」で、川合尊社長は新規事業開発にかける思いをこう語った。ベンチャーラボは新規事業創出を開拓するための拠点で提携先となるスタートアップ企業などの情報を収集する。

18年4月に米カリフォルニア州、19年5月のパリに開設した。ベンチャーラボ関連でここ数年、計30億円をスタートアップに出資してきた。米シリコンバレーやパリといった有望な事業アイデアが多く生み出される場所の近くに拠点を置くことで、情報収集などのスピードを上げ早期の新規事業立ち上げにつなげたい考えだ。年内には中国・深圳での開設も予定し、その勢いは止まらない。

日特は1936年、日本碍子(現日本ガイシ)から分離・独立して創業し、森村グループでは最も若い企業だ。母体となった日本ガイシ同様、プラグを核としながらも、新技術、新規事業にチャレンジしてきた。1958年の切削用機械工具事業への参入や半導体向けセラミック基板の製造、その後の医療分野への進出など、事業の芽を育ててきた。ただ、それでも連結売上高に占める自動車関連製品の売上高は84%にのぼり、プラグ「一本足」状態のままだ。

エンジンを持たないEVが台頭すれば点火プラグの需要は急減する可能性がある。医療、環境エネルギー、次世代自動車の3分野を重点項目に据えて新規事業育成に取り組んでいる。

環境エネルギー分野では森村4社で手を組んだ固体酸化物形燃料電池(SOFC)の新会社を立ち上げ、日特は67%の筆頭株主となった。尾堂真一会長の肝煎り案件で4社の連合を主導したとされる。次世代自動車向けには固体の構成材料から成る次世代電池の最右翼である全固体電池の独自開発も進めている。宇宙探査スタートアップのispace(東京・港)に供給し、同社が23年ごろに打ち上げる探査機で月面に運ぶ計画だ。

日特の19年3月期の連結売上高は、世界的に堅調だった自動車市況に支えられ、5年前と比べて3割増の4250億円と、2期連続で過去最高を更新した。連結純利益も3割増の428億円と高水準を維持している。

ただ足元は新車市場が減速しており20年3月期通期の連結業績見通しは、売上高は4330億円と過去最高を更新するが、純利益は390億円と、3期ぶりに400億円割れとなる。

芽吹いた新しい事業を、太い幹に成長させられるのか。EVの本格的な普及など事業環境が大きく変わる中、時代の先を読む先見性がさらに問われている。

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