堤清二=辻井喬展、文化創出に懸けた人生たどる

文化往来
2019/11/13 2:00
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セゾングループの元代表で、詩人・小説家としては辻井喬の筆名を用いた堤清二(1927~2013年)の足跡を振り返る「闘争そしてあるいは叙情」展が、長野県軽井沢町のセゾン現代美術館で開かれている(25日まで)。

「堤清二/辻井喬 オマージュ展最終章」と銘打たれた展示は、同館が14年、15年に開催してきたこのオマージュ展の第3弾。西武百貨店、パルコ、無印良品などの企業を率いながら、新たな時代の文化創出に情熱を傾けた故人の歩みを、詩人、作家としての活動と併せて紹介する。

今回、新たに1階のエントランスに展示したのが、作家、三島由紀夫の依頼で西武百貨店が受注、デザインした「楯(たて)の会制服」だ。三島と友人の関係にあった堤が、「世界最小の軍隊を作ろうと思う」と打ち明けられ、西武百貨店に勤めていた五十嵐九十九にデザインをさせた100着の制服のうちの一つ。周囲には、三島の姿が描かれた横尾忠則の油彩画「滝壺(たきつぼ)」や、三島直筆の書なども展示されている。東大経済学部に在籍中、左翼運動に傾倒した堤が、後に左右の思想的な違いを超えた深い交友を続けていた事実が、浮かび上がってくる。

実業家で政治家の父康次郎、歌人だった母操をはじめとする家族の肖像も、写真を中心に紹介する。鉄道経営と土地開発事業を軸に一大企業グループを築いた父の生き方は、辻井が自らの行く道を考察する際に、終生顧みたテーマだった。野間文芸賞を受賞した代表作「父の肖像」などの著書も別途展示している。

美術関連では、堤のお気に入りで、61年に池袋の西武百貨店で、80年に西武美術館で大規模な展覧会を開いたパウル・クレーの油彩画が印象深い。また、展示された様々なポスターの複製からは、堤の文化戦略が見てとれる。75年の西武美術館のオープン、78年のジャスパー・ジョーンズ回顧展、84年のヨーゼフ・ボイス展、89年のウィーン世紀末展などからは、時代の美術を先導した跡が伝わる。78年の西武美術館での安部公房スタジオ公演や、83年のミニシアター「シネヴィヴァン」のポスターからは、演劇、映画と多彩なジャンルでの先進的な試みを知ることができる。

芸術だけではない。消費と直結したライフスタイルの提案はコピーライターの糸井重里、アートディレクターの浅葉克己らを起用したポスターに明らかだ。81年の「不思議、大好き。」、82年の「おいしい生活。」などのキャッチコピーは、時代を象徴する言葉となった。

91年に堤はセゾングループの代表を辞任し、業績不振の事業の清算にも携わりながら、晩年は辻井喬としての活動に精力を注いでいった。その100冊を超える著書も展示する。膨大な詩編に数々の長編小説、そして果敢に展開した文化戦略は、二足の草鞋(わらじ)といった言い方では、語り尽くすことはできない。25日は故人の七回忌。文化創造に懸けた故人の大きな足跡は、さらなる歴史的な評価が待たれている。

(宮川匡司)

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