森村泰昌、下町の変貌 能形式で描く
文化の風

関西タイムライン
2019/11/8 7:01
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現代美術家の森村(写真中央)が俳優らとつくる能形式の舞台の稽古風景=「下町物語プロジェクト2017-2019」提供

現代美術家の森村(写真中央)が俳優らとつくる能形式の舞台の稽古風景=「下町物語プロジェクト2017-2019」提供

現代美術家の森村泰昌が「野生能」と名付けた能形式の現代舞台劇を神戸市と京都市で上演する。ゴッホの自画像に扮(ふん)するセルフポートレート写真などで知られる森村にとって初めての演劇作品。三間四方の舞台など能の形式を取り入れつつ「能が伝統のなかで洗練されていく前の、原型のような舞台になる」(森村)という。

旅人を演じる森村が京阪神の下町を巡る物語。旅人が出会う、それぞれの土地を象徴するものが、地域の歴史や現代に至る問題などを語り聞かせる。名所旧跡を訪れる旅人(ワキ)の前に死者や精霊などの超現実的存在(シテ)が現れ、土地にまつわる伝説や身の上を語る「夢幻能」の形式だ。

■映像表現も駆使

「火魔我蹉鬼(カマガサキ)、洲波羅(スハラ)、富久破裸(フクハラ)」というタイトルは、大阪市西成区の釜ケ崎、京都市下京区の崇仁地区と同南区の東九条を南北に貫く須原通、神戸市兵庫区の福原を指す。いずれも下町と呼ばれるエリアだ。震災復興や再開発による急激な変化にさらされ、「もともと住んでいた人たちが忘れられている共通の問題を抱えている」(森村)。

舞台のスクリーンには今春閉鎖されたあいりん総合センターの映像を映す=藤井 光撮影

舞台のスクリーンには今春閉鎖されたあいりん総合センターの映像を映す=藤井 光撮影

三間四方の舞台の後方には鏡板の代わりに大きなスクリーンを置き、建物や海などの映像を流す。共演は青年団の俳優、太田宏とソプラノ歌手の太田真紀。パーカッションの葛西友子が演奏を担当する。シテに相当する役は主に俳優が演じ、第1場の釜ケ崎の場面では3月末に閉鎖されたあいりん総合センター、第2場の須原では崇仁と東九条の土地の霊、第3場の福原では海と、それぞれ象徴するものが変わっていく。

第1場では俳優は舞台上に姿を見せず、語りの声のみを担当。旅人はスクリーンに映した閉館直前のあいりんセンターの映像と対話する格好だ。第2場では森村もシテの役割を演じ、「役が混沌として、観客をカオスに引きずり込む」(森村)。途中、森村と俳優が漫才のようなやりとりを繰り広げる「間狂言」のような場面も設ける。

第3場では舞台上には誰もいなくなり、スクリーンに映した神戸の海と波の音だけ。福原は平安時代末期に平清盛が福原京を置いた土地で、海に近く、古くから外国との交流が盛んだった。森村は「三間四方の舞台が日本で、その外は外国のイメージ。三間四方だけで全てを語ることはできず、外へ視点を向けなければ成り立たないということを表現している」と話す。

■「当事者の話聞く

2017年に始めた「下町物語プロジェクト」の最終章として制作。森村は神戸、大阪、京都の下町を訪れ、町を散策したり、住民の話を聞いたりして「下町とは何か」思考を重ねた。「土地の歴史を忘れ、町をクリーンにして若者が訪れるようになればいいのか」という問題意識に行き着いたが、安易に答えを提示することはしない。「部外者の旅人ができるのは当事者の話を聞くことだけ。町のありかたや未来を考える手がかりになれば」と話す。

他者に扮する作品を発表してきた森村が能形式の作品というのは意外に感じるが、布石は2018年に発表した「芸術家Mの『にっぽん、チャチャチャ!』」にあった。三島由紀夫やマリリン・モンローに扮した森村が戦後史や個人史をレクチャーする形のパフォーマンスで、「浮かばれずして亡くなった人たちが語るという形式は能そのもの」(森村)。今作は森村自身が語る形だが「ゴッホに扮して語る場合も、ゴッホを通じて自分のことを語るようなところがある。自分自身が語るのとあまり大きな違いは感じない」という。

9、10日にArtTheater dB神戸(神戸市長田区)、16、17日に北河原市営住宅跡地(京都市南区)で開催する東九条野外劇場でそれぞれ上演する(16日は公開リハーサル)。(小国由美子)

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