日中挟撃受けるサムスン 高付加価値品で逃げ切れるか
日経ビジネス

コラム(ビジネス)
2019/11/12 2:00
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韓国中部の工場で生産ラインを整備する。テレビ向けパネルでも液晶から有機ELへのシフトを急ぐ(忠清南道牙山市、サムスン提供)

韓国中部の工場で生産ラインを整備する。テレビ向けパネルでも液晶から有機ELへのシフトを急ぐ(忠清南道牙山市、サムスン提供)

日経ビジネス電子版

韓国サムスン電子が2019年10月10日に発表した13兆1000億ウォン(約1兆2000億円)もの大型投資は、経営の先行きを指し示すものだった。有機ELテレビに使う次世代大型パネルのラインを整え、ライバルのLGとは異なる技術を使って色彩を豊かにするという。サムスンはローエンドからハイエンドまで幅広い製品を大量に供給してコスト効果を追求してきた。中国企業の追い上げを受け、高付加価値戦略に経営を切り替える姿勢が鮮明になっている。

「外部の追撃が速くなるほど、挑戦が強くなるほど、革新を重ねて徹底的に準備する」。李在鎔(イ・ジェヨン)副会長は韓国中部の牙山(アサン)市にあるパネル生産拠点で開いた新ラインの記念式典でこう話した。

液晶パネルを手掛ける1ラインの生産を停止し、有機ELに転換する。2021年をめどに量産を始め、25年までに約13兆ウォンを投じる計画。極めて小さな半導体結晶である「量子ドット(QD)」を使い、サムスンが「QD」と呼ぶ有機ELパネルを生産する。大型液晶パネルは中国勢が台頭して供給過剰となり、収益が悪化していた。李氏の発言にはQDパネルで再び中国勢を引き離したい意向がにじむ。

大型の有機ELパネルで先行し、テレビ向け市場をほぼ独占している韓国LGディスプレーは、19年7月に3兆ウォン(約2800億円)の追加投資を決めている。白色発光の有機ELにカラーフィルターを形成するLGの方式に対し、サムスンは青色発光の有機ELと量子ドットを使う独自の描画方式により、色鮮やかな動画が楽しめるとしている。

■ガラス投入量が液晶の1/3に

量産開始時には8.5世代と呼ぶ2200ミリメートル×2500ミリメートルの大きさのガラス基板を月3万枚程度、投入する規模で生産する計画だ。この数字にサムスンの今後の経営方針が浮かび上がる。IHSマークイットジャパンの宇野匡シニアディレクターは「転換前のラインのガラス投入量は月9万枚強だったので、生産量が3分の1に減る計算だ」と分析する。

サムスンは転換する元のラインで液晶パネルを55インチ換算で年間600万枚近く生産してきたとみられる。パネルの製造工程では基板に回路を形成して、何枚もの最終製品向けの大きさに加工する。関係者の話を総合すると、新ラインでは1枚のガラス基板から、最高級テレビ向けとなる65インチのパネル3枚のほか、32~35インチを6枚取る可能性が高い。65インチのQDパネルの生産量は月約9万枚となり、計算上は年間で100万枚強となる。

東海東京調査センター企業調査部の石野雅彦シニアアナリストは「サムスンはQDでは、65インチで(4Kの4倍の解像度を持つ)8Kの超高級テレビ用と、ゲーム用に表示の遅れが非常に小さいディスプレーに絞るのではないか」と話す。世界のテレビ出荷台数は18年に2億2000万台だった。65インチのQDパネルの生産量はテレビ市場の1%にも満たず、高価格帯を重視する戦略がうかがえる。

■かつて日本の電機も高級品シフト

これまでのサムスンはローエンドからハイエンドまで製品を大量につくり、コストを引き下げて価格競争力を保ってきた。しかしこの戦略は見直しが進んでおり、「売上高よりも高付加価値品で収益性を確保していく」(幹部)という方向にかじを切っている。スマートフォンでもハイエンド品に経営資源を集中し、ローエンド品は外部委託を活用し始めている。

市場でわずかな比率でしかない高級品に事業を絞る戦略は、かつて日本の電機メーカーも採用した。液晶ディスプレーでは高コントラスト比を追求して高価格帯に集中し、サムスンなど韓国勢との直接対決を避けようとした。それでも製品技術が成熟して差をつけることができなかった。

「中国に(安いコストで)追い上げられ、日本は(技術で)先を行く。韓国はサンドイッチ状態だ」。2007年、李在鎔氏の父で創業家の2代目である李健熙(イ・ゴンヒ)会長は警鐘を鳴らしていた。今、中国の躍進は著しく、スマートフォンではファーウェイやvivo(ビボ)、OPPO(オッポ)が世界でシェアを高め、京東方科技集団(BOE)は有機ELパネルの生産で韓国勢を追っている。

一方、日本政府による半導体関連材料の輸出規制強化は、サムスンが基幹材料や製造装置を日本に依存する構図を浮き彫りにしている。デジタル機器の競争軸も米国を中心とした先進国がハードからソフトやサービスにシフトさせている。

スマートフォンのシェアが1%未満に落ちた中国市場では、薄型テレビでも現地勢に差をつけられている。両品目とも主力の米市場では強い競争力を保つが、いずれ中国市場と同様に中国勢が追い詰めてくるだろう。サンドイッチ論は先見の明があったと言えるが、いまだ克服はできていない。10年越しの課題がサムスンに突き付けられている。

(日経ビジネス 竹居智久)

[日経ビジネス電子版 2019年10月29日の記事を再構成]

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