ソニーの「背伸び戦略」 画像センサーでライバル圧倒
グロービス経営大学院教授が「VRIO」で解説

ビジネススキルを学ぶ
コラム(ビジネス)
2019/11/8 6:31
保存
共有
印刷
その他

ソニーが5Gを見据え、スマートフォンなどで使うCMOS(相補性金属酸化膜半導体)センサーの新工場を建設すると発表しました。光を電気信号に変えて映像化する半導体のCMOSセンサーは、スマホやデジタルカメラの「目」にあたる重要な部品です。ソニーのCMOSセンサーは世界シェアで50%を超え、全社利益の2割弱を稼ぎます。"半導体敗戦"と言われる日本勢の中で、なぜソニーのCMOSセンサーは強いのでしょうか。グロービス経営大学院の金子浩明教授が、ビジネススクールで学ぶフレームワーク「VRIO」の観点から解説します。

【解説ポイント】
・競合サムスンに先行
・エンジニア同士の「すり合わせ」開発
・「世界初」を次々と実現

【関連記事】ソニー、5Gにらみ半導体新工場 1000億円投資

VRIO分析では、組織が持つ内部資源の強みがどれほどあるのか、経済価値(Value)希少性(Rarity)模倣困難性(Imitability)組織(Organization)の4つの要素から確認します。中でも模倣困難性があり組織体制が盤石なほど競争優位性の構築に寄与します。ソニーがなぜ画像センサーの分野で成功したのか、考えてみます。

■「世界初」で得た経済価値と希少性

アップルなどのスマホメーカーは、画質と小型化、省電力をイメージセンサーに求めます。特に、近年ではユーザーの画質に対するニーズが高まっているので、顧客のKBF(Key Buying Factor:主要な購買決定要因)は画質といっていいでしょう。

高画質の実現には、「画素数」「明るさ(暗いところでも写る)」「ゆがみの少なさ」「ノイズの少なさ」「動画の滑らかさ(フレーム数/秒)」が重要です。現在のCMOSセンサーには「表面照射型」と「裏面照射型」の2つのタイプがあります。裏面照射型の方が光を取り込む効率が高いため、暗い場所でも画像が鮮明です。手ブレにも強いので、スマホ用イメージセンサーの主力は裏面照射型になっています。しかし、製造は難しく、量産化している企業は世界で4社しかありません。世界で初めて裏面照射型の量産に成功したのはソニーでした。

また、ソニーは世界で初めて、ハイスピード撮影やスーパースローモーション撮影に優れている「積層型CMOSセンサー」の市場投入に成功しました。こうしてソニーは「動画の滑らかさ」と「小型化」の点でも優位性を築きました。ちなみに、サムスン電子が積層型CMOSセンサーを投入したのは、ソニーに1年以上遅れてからのことでした。ソニーは独自の技術(希少性が高い)によって差別化された製品をいち早く市場投入し、高いマージンと高いシェアを確保。高いシェアはスケールメリットと学習効果につながり、低コストも実現しました。

■模倣できない高度な技

ソニーは1970年からCCD(電荷結合素子)センサーの開発に着手し、「ハンディカム」で商品化に成功しました。90年代にカメラ付き携帯電話が普及し始めるとCMOSセンサーの開発に着手し、当時はCCDよりも画質で劣っていたCMOSセンサーの高画質化に成功します。その後もいち早く裏面照射型CMOSセンサーの実用化、積層型CMOSセンサーの実用化に成功します。ソニーの半導体事業は50年近くの歴史を有しています。長年にわたる技術の蓄積は、簡単にまねできるものではありません。

技術がまねされにくいもう一つの理由は、技術的な優位性の源泉がアナログ的な技にあるからです。裏面照射型CMOSセンサーを量産する際の難しさは、200~300mm口径のシリコンウエハー(半導体の基板)を薄く削り、かつ平滑にすることです。もし削りムラがあると、正しい色で撮影ができません。加えて、受光するセンサー部分と回路を貼り合わせる際にも高度な技が必要です。こうしたノウハウは独自の生産工程、生産設備、製造オペレーションが一体となったものであり、完全にブラックボックス化されています。

■現場の学習を促す組織

ソニーの先進技術は「すり合わせ型」の製品開発によって生み出されています。ソニーの半導体事業では、プロセスエンジニア(製造工程や生産設備を設計)、センサー部分と回路の設計を手掛けるエンジニア、モバイル機器を開発するエンジニアが緊密に連携(すり合わせ)しながら、製品および製造工程の設計をしています。すり合わせ型開発のメリットは、開発期間の短縮や、生産における歩留まりの向上です。ソニーのエンジニアたちはイメージセンサーの先駆者として、常に技術的に高い目標を掲げ、組織全体で成果を粘り強く追求し、自力で世界初を実現してきました。

挑戦的な目標を掲げ、実現していく過程で組織内に「独自の経営資源」を蓄積していく戦略のことを「オーバーエクステンション戦略(伊丹敬之・考案)」といいます。言い換えると「背伸びした戦略」です。背伸びをすれば、自社の弱い面が浮き彫りになります。そうすると現場には「何とかしなければ」という緊張感が生まれ、人々の努力を促し、現場の学習が促進されます。50年間もこれを続ければ、それは組織文化になります。

VRIO分析から、ソニーのCMOSセンサーの競争優位性は、長年にわたって蓄積されてきたまねできない技術と組織能力を中心とした経営資源に支えられていることが理解できます。今後は自動運転向けなどで車載用のセンサーが伸びると予想され、モバイル用途が中心だったソニーにとってはチャレンジになります。培ったノウハウに加え、オーバーエクステンション戦略で、新たな知識を獲得できれば、勝ち目は大いにあるでしょう。

VRIO分析」についてもっと知りたい方はこちら

https://hodai.globis.co.jp/courses/5f26d70d(「グロービス学び放題」のサイトに飛びます)

かねこ・ひろあき
グロービス経営大学院教授。東京理科大学院修了。リンクアンドモチベーションを経て05年グロービスに入社。コンサルティング部門を経て、カリキュラム開発、教員の採用・育成を担当。現在、科学技術振興機構(JST)プログラムマネジャー育成・活躍推進プログラム事業推進委員、信州大学学術研究・産学官連携推進機構信州OPERAアドバイザー。
保存
共有
印刷
その他

関連企業・業界 日経会社情報DIGITAL

電子版トップ



[PR]