対話で創る理想の一本 プロ野球選手のバット製作
匠と巧

関西タイムライン
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2019/11/11 7:01
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カンナやバイトと呼ぶ工具を使って木製バットを削り出す渡辺さん=目良友樹撮影

カンナやバイトと呼ぶ工具を使って木製バットを削り出す渡辺さん=目良友樹撮影

プロ野球選手の約5人に1人が使うバットづくりの達人たちがいる。ミズノ子会社ミズノテクニクス(岐阜県養老町)の渡辺孝博さん(48)と名和民夫さん(52)だ。求められるのは木材の選定や削る技術だけではない。「手がピタッとあたるように」「バランスをヘッド部分に」――。選手の感覚を聞き取り製品に反映させるため、高いコミュニケーション力も含めた総合力でバット製作にあたる。

同社でプロ用バットの製作を許されるのは、今の最上位資格「クラフトマン」を持つ渡辺さんと名和さんのみ。2人で米大リーグも含めた国内外の選手約200人を担当し、つくる数はそれぞれ年1万本ほどだ。

養老鉄道の無人駅、美濃高田駅から徒歩10分ほどの養老工場。内部にはイチローさんや松井秀喜さんらが使ったミズノ製のバットが100本以上並ぶ。そのなかから選ばれたモデルをもとにバットの形状をミリ単位で修正し、選手の感覚的な要望を落とし込む。

まずは選手が握る最も重要なグリップ部分の作業から。回転させた木材を「バイト」と呼ぶノミのような道具で手の感覚を頼りに削る。定規に似た道具で見本のバットと時折比べ、削り作業は約20分で完了する。微妙な形状を整えるため、筒状のバットに合わせてカンナの刃も丸みを持つように自ら仕上げる。

バットの品質は木の品質でもあり、素材選びには特に気を使う。渡辺さんはバットづくりを始めた当初、協力会社の製材工場に泊まり込んで特性を学んだ。使うのは米国とカナダの木材で、木目や音から選別する。例えば音。円柱状の木を地面に打ち付け、「『カキーン』という高く抜ける音がするのが反発力のある良い素材」(渡辺さん)。同じ形でも重さが変わるため密度も重要。「この形で900グラムのバットが欲しい」という要望すらある。

限られた時間で誤差なく仕上げるには技術力に加え、優れた人間性も必須。クラフトマンへの昇級試験には人物評価のための面接もある。選手が納得する良いバットづくりには本人のフィーリングを聞き出すことが欠かせない。そのために「様々な選手の修正経緯も覚えている」という。

バットの好みはホームランバッターとヒッターで異なり「100人100通り」。2018年、19年のパ・リーグホームラン王、西武ライオンズの山川穂高選手が好むのは長く細いバット。先端近くに重心があり、遠心力で球を遠くに飛ばしやすい。ヒッターは短く中央に重心があり、操作性の良いものを好む。

実は渡辺さんには野球の経験はない。入社後はテニスラケットなどの製造に携わった。イチローさんらのバットをつくってきた久保田五十一さんの後継として白羽の矢がたった。木材の勉強からはじめ、久保田さんの下でバットを磨くだけの作業を2年以上続けて体で技術を覚えてきた。来シーズンも自らが手掛けたバットを使う選手の活躍を楽しみにしている。

(斎藤毬子)

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