メキシコ、治安悪化が深刻 米と対立の火種にも

2019/11/6 8:05
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【メキシコシティ=丸山修一】メキシコの治安悪化が米国との新たな対立の火種になろうとしている。米が求める麻薬組織幹部引き渡しのための掃討作戦に失敗したほか、4日には米国籍の一家9人が惨殺された。トランプ米大統領は組織との「戦争」を求めるがメキシコ側は煮え切らず、不法移民問題のように関税を脅しに対策を求めてくる可能性もある。

「メキシコは今こそ米の支援で麻薬組織との戦争を実行し、根絶する必要がある」。トランプ氏は5日朝のツイッターへの投稿でこう訴えた。4日にメキシコ北部で米系モルモン教徒一家の車列が襲撃され子供6人を含む少なくとも9人が殺害された。麻薬組織が対立する組織と誤った可能性があるという。同日午後には電話で直接、メキシコに支援を申し出、対応を求めた。

トランプ氏の関心が高まったのは4日の事件がきっかけだが、これまで何度も対策を求めてきたにもかかわらず、メキシコの動きが鈍いとの背景もある。

10月には米麻薬取締局(DEA)が求めた麻薬組織幹部の身柄確保のため、メキシコの治安当局は北西部のシナロア州で作戦を展開した。いったんは幹部を確保したが、組織の反撃で釈放してしまった。メキシコシティ市内でも同月、大規模な組織の掃討作戦を実施し30人以上を拘束したが、すぐに大半を釈放した。組織の壊滅には全く近づいていない。

メキシコ側が麻薬組織の対策に及び腰なのは2つの理由がある。一つは組織との対決による苦い歴史だ。カルデロン元大統領時代(2006~12年)には組織との全面対決を打ち出し、軍を大量に動員して撲滅作戦に乗り出した。結果は組織の反撃などで数万人の死者を出し、かえって治安悪化を招いた。「麻薬戦争」とも呼ばれる事態となった。

もう一つは麻薬組織との癒着が政界にまん延している可能性が高いことだ。米で終身刑を受けた元麻薬王のホアキン・グスマン受刑者の裁判ではペニャニエト前大統領側に多額の賄賂が渡ったとの証言も飛び出した。地方の警察はすでに組織と癒着しており、事実上、日常的な取り締まりが行われていないともされる。強大な組織の力に政府も警察も手が及ばない状況だ。

メキシコのロペスオブラドール大統領は18年の大統領選で、治安回復を主要公約に掲げて当選した。従来の連邦警察を解体し、軍が主導する独自の治安部隊を創設して各地の取り締まりにあたらせている。しかし「暴力を暴力で解決しない」と主張し、カルデロン時代のように組織と全面対決する姿勢はない。米が求める麻薬組織幹部の引き渡しもグスマン服役囚以外は目立った動きはない。

20年に大統領選を控えるトランプ氏は、今春から不法移民対策と合わせて不法薬物の密売などの麻薬問題についての対応をメキシコ側にたびたび求めてきた。5月には不法移民対策が不十分だとしてメキシコからの全輸入品目に関税を課し、さらに段階的に税率を引き上げると発表。慌てたメキシコ政府は2万人以上の治安部隊を導入して対策にあたった。

トランプ氏は5日のツイッターへの投稿で「麻薬組織の撲滅には軍が必要だ」として、米軍をメキシコ国内で作戦に協力させる必要があると訴えた。しかしロペスオブラドール氏は主権に関わる問題だとして、あくまで「メキシコ政府が対応できる」と電話でも申し出を断ったが、具体的な今後の取り組みについては明らかにされていない。

今後、麻薬組織への対応で具体的成果が出なければ、トランプ氏は何度かツイートしているように不法移民問題と同様、関税措置を武器に対応を迫る可能性もある。不法移民対策は一定の成果をあげることができたが、麻薬組織への対応は歴史が裏付けるように簡単ではない。かつてのような大混乱を起こす可能性もあるだけにロペスオブラドール氏は難しいかじ取りを迫られている。

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