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ラガルドECBにくすぶる不安
欧州総局編集委員 赤川省吾

ドイツ政局
金融最前線
赤川 省吾
経済
ヨーロッパ
編集委員
2019/11/5 20:00
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答えるべきではないと心に決めていたのだろう。欧州中央銀行(ECB)のラガルド新総裁にアドバイスは――。記者団に何度、問われてもドラギ前総裁の反応は判を押したようだった。「なにもない」。だがドラギ氏の態度とは裏腹に、欧州のセントラルバンカーのあいだにはラガルド体制への不安がくすぶる。

ラガルド新総裁は「中銀の独立性」を守れるのか(写真は独フランクフルトのECB本部)

理由は「金融政策のプロ」とみなされず、中銀の独立性が脅かされるとの見方があることだ。

「国際経験が豊かでコミュニケーション能力も高い。危機対策の実地を踏み、親欧派でもある。足りないのは中銀での実務経験などだ。政治に近いことも中銀の独立性の観点から望ましくない」。ECB専務理事に内定したボン大学のシュナーベル教授は7月、筆者の電話取材に語った。

発言内容が記事になる「オンレコ取材」だと伝えても臆することはなかった。裏返せば、それがいまの中銀界の雰囲気をあらわす。

「ラガルド氏なら超タカ派のワイトマン独連銀総裁のほうがまし」。別のハト派(緩和派)の中銀幹部も取材に漏らした。政策面では対極にあるワイトマン氏だが、「中銀の独立性を守る」という点では信頼できるという。

初の女性総裁であり、独仏首脳が主導した人事だから表立った不満はほとんどない。それでも取材を重ねると「政治に押しつけられた総裁」と中銀筋が受け止めていることがわかる。

タカ派もハト派もラガルド氏が政治の風を読むことを恐れる。人事で恩のあるマクロン仏大統領になにか言われたら敢然と立ち向かうのか。疑心暗鬼が覆う。

杞憂(きゆう)とは言い切れない。「金融政策に注文をつけることができる」。そんな空気が少しでも広がれば19カ国の寄り合い所帯であるユーロ圏は収拾がつかなくなる。極右政党ですら与党入りする政治クライシスが続く欧州。中銀の独立性を守ろうとする防衛本能が働いているのだ。中銀が政治の圧力にさらされているのは世界的に共通する。

しかもドラギ前総裁が残した大規模緩和は持続性を欠く。量的緩和を再開はしたものの、買い取り枠が最大のドイツ国債は2020年末には枯渇する。購入条件を緩めて量的緩和を続けるか、それとも緩和をやめるか。20年夏ごろには決断を下さないといけない。

ラガルド氏はECBで12月に初めての記者会見に臨む。「そこでの言いぶりに要注意だ」。市場関係者だけでなく、理事会メンバーも神経をとがらせている。

(欧州総局編集委員 赤川省吾)

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