眉村卓さん「個人と組織の葛藤」先駆的に描く

文化往来
2019/11/6 11:22
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2009年、母校の大阪大学を訪れた眉村さん

2009年、母校の大阪大学を訪れた眉村さん

11月3日、85歳で亡くなった作家の眉村卓さんは、ヤングアダルト向けのSF小説で知られた。文通がきっかけで不思議な出来事が起きる「まぼろしのペンフレンド」(1970年)や、美貌の生徒会長が学校を支配する「ねらわれた学園」(76年)などは人気を集め、テレビドラマ化や映画化もされた。

それらと並ぶ代表作が、惑星統治のために派遣された官僚を主人公とする「司政官シリーズ」だ。そこには「個人と組織との葛藤」という眉村さんが一貫して追いかけたテーマが最もよく表れている。その中の「消滅の光輪」(1979年)は泉鏡花文学賞、優れたSF作品に贈られる星雲賞を受賞した。主人公たちは組織の論理に翻弄されながらも、自らの力で活路を見いだそうとする。そこには作家自身のサラリーマン経験も影響していたのだろう。

そんな眉村さんが作家デビュー間もない60年代初めに提唱したのが「インサイダー文学論」。それまでの小説は体制(組織)の外側にいる主人公、いわばアウトサイダーを描くことが多かったが、今後は体制内部にあって、その動かし方を知っている人物も主人公になり得るというものだ。それは警察ミステリーをはじめ、「組織人」を描いた小説が当たり前になっている現状を先取りするものだった。

2011年6月には日本経済新聞夕刊のコラム「こころの玉手箱」を連載してもらった。打ち合わせの席で、友人で作家の藤本義一さんとふざけて格闘ごっこをしたと聞いた。藤本さんは大学時代に日本拳法部に入っていたのに対し、眉村さんは柔道部の選手だったという。大学から柔道を始めたにもかかわらず、レギュラー選手の座を獲得した眉村さん。地道な頑張りは作品の主人公たちに重なる。

(中野稔)

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