スタイル徹底の強み(岩渕健輔)
イングランドとの決勝を制した南アフリカは、自分たちの強みを徹底的に押し出した。スピードのあるバックスの選手にあまりボールを回さず、FWとキックで勝負する。スクラムで何度も反則を奪ったことは一つの象徴だった。

ディフェンスも非常に堅かった。ラックができた後の防御ラインの再整備が早く、かなり多くのタックルをしながらも正確性は落ちなかった。FWを前で止め続けたことがボディーブローのように効き、イングランドは次第に運動量が落ちた。
南アのパスの回数は100回足らずで相手の6割強。キックを多く使って陣地獲得で優位に立てたうえ、ミスなどでボールを奪い返された数も相手の半分だった。W杯の準決勝以降は、守備が主体の堅実な試合になることが多いが、南アはそれを完全に遂行できた。
イングランドは準決勝のニュージーランド(NZ)戦の出来があまりによく、同じパフォーマンスを再現することが難しかったのかもしれない。一番重圧のかかる試合にピークを持ってくるという意味でも、南アが一枚上手だった。
この大会で再確認されたのは、自分たちの強みを貫く重要性だろう。南アは前回優勝した2007年も、今回と同じような戦い方だった。イングランドも準決勝まではフィジカルの強さや守備の堅さを前面に出していた。他に4強に入ったNZ、ウェールズもスタイルを曲げなかった。南アは1次リーグ初戦でNZに敗れたこともアヤになった。この時は守備が乱れ、反則も多かった。おかげでもう一度、堅実な試合運びに回帰することができた。
アジアで初めてのW杯は開催都市、多くの自治体、ファンやボランティアの方々のおかげで大成功した。その結果、ラグビー界がやらなくてはいけないこともはっきりした。
ティア2と呼ばれる中堅国は、日本を除くとあまりいいプレーができなかった。特にフィジー、サモア、トンガは協会の財政的な問題もあり、選手の招集や事前の準備に支障を来した。国際的な支援をもっと手厚くした方がいいだろう。ティア2と強豪国との対戦機会を増やすような大会の枠組みも必要になる。
日本にも解決すべき課題がある。この4年間は国際統括団体ワールドラグビー(WR)が優先的に強豪国との試合を組ませてくれた。来年でスーパーラグビーへの参加が終わることもあり、今後は自力で強化の場をつくらないといけない。来年は強豪国と5試合程度のテストマッチを組めそうだが、協会の国際交渉力がさらに問われる。
10月31日のWRの総会では、日本協会を代表してプレゼンテーションの機会をもらった。1995年W杯でNZに145失点した日本が24年でここまで来た。他のチームにも同じことができるし、そうした国々を勇気づけるためにももう一度日本でW杯を開催したいと訴えた。こちらも次の日本の目標になる。
(日本ラグビー協会専務理事、7人制男子日本代表HC)