アラムコ上場が示す石油の終わり(The Economist)

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2019/11/4 23:00
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1859年に米ペンシルベニア州で初の近代油田が掘削されて以来、石油は経済と地政学の中核になる道を歩み始めた。石油は西側諸国の消費文化に火をつけ、第2次世界大戦の勝敗を左右し、1970年代には経済危機を起こした。中国はこの20年で世界第2の石油消費大国になり、米国はシェール革命で50年代以来初めてエネルギーの「純輸出国」に近づきつつある。

世界最強の競争力を持つサウジの国営石油会社アラムコの上場は、石油の時代に終わりが見えてきた兆しだ=ロイター

世界最強の競争力を持つサウジの国営石油会社アラムコの上場は、石油の時代に終わりが見えてきた兆しだ=ロイター

そして今、石油の物語は新たな章が始まりつつある。世界がクリーンなエネルギーに移行するに従い、石油需要は頭打ちになるか減っていくとされる。だが従来同様、石油は新時代でも経済と地政学に驚く変化をもたらすだろう。

■公開すれば時価総額で米アップルを抜くが

サウジアラビアの国営石油会社サウジアラムコが近く、新規株式公開(IPO)する。同社は毎日1000万バレルの石油を産出、世界の石油産出の11%を占める。最高級の超軽質油「アラブ・スーパーライト」を産出するなど様々な点で競争力を持つが、議論も巻き起こしている。企業価値が1兆ドル(約108兆円)を優に超える同社が上場を果たせば、時価総額は米アップルを抜いて世界最大になる可能性がある。

ただ、同社のIPOは何度も延期されているうえ、9月中旬にはその大規模石油施設がミサイル攻撃を受けた。加えて同社を実質的に動かしているのは、自分に批判的な人物の殺害もいとわない独裁色の強いムハンマド皇太子だ。

だがここでは、こうした点以外に目を向けてみよう。アラムコが描く基本戦略は「石油業界が縮小しても最後まで生き残る石油企業」だ。これは今後、様々な混乱が起きることを示唆している。

■アラムコの基本戦略は石油需要減少が前提

「ピークオイル」という言葉は石油資源が将来、枯渇することを懸念した米地質学者M・キング・ハバート氏が56年に考案した。だがこの言葉は最近、石油の「需要」が近くピークを迎え、その後減っていくという正反対の意味で再び使われるようになった。石油需要が2008年以降、年1.4%増えているため、違和感を覚えるかもしれない。だが、エネルギー各社の経営者が抱く石油を巡る長期ビジョンは、都市の大気汚染や気候変動の問題があるため石油の未来は暗い。石油は世界のエネルギー利用の3分の1を占め、二酸化炭素(CO2)排出量でもその約3分の1の原因となっている。

多くの石油会社は、石油生産量は今後10年はまだ徐々に増え続け、今の日産9500万バレルをやや超える水準に達し、その後は横ばいに転じるとみている。しかし、世界の気温上昇を産業革命前から1.5~2度未満に抑えるには、石油生産量を50年までに日産4500万~7000万バレルに減らす必要がある。CO2排出量が5分の1少ないクリーンな油田に生産を移すのも有効だろう。業界幹部らは少なくとも公の場では、石油は今後も地球にとって欠くべからざる燃料だと主張しているが、悪いイメージが広がりつつあることを感じている。西側諸国ではCO2排出規制を強化した方がいいという世論になりつつある。

そのため、一部の西側企業はこうした石油への逆風が強まる不安から、いつ成功するかわからない何十年もかかる油田開発に多額の資金をつぎ込むより、短期プロジェクトを好むようになっている。

石油需要が実際に落ち込めば、一部の製品や生産者は特に影響を受けるだろう。石油全体の3分の1強は車や大型トラックの燃料に使われているが、自動車は電動化する可能性がある。だが石化製品やプラスチック製品をつくるのに石油に代わる原料を見つけるのは困難だ。

常識的に考えれば掘削コストが高く、CO2排出量が多い石油会社から淘汰されていくだろう。その場合、この160年の間に巨大化した石油産業は金銭的にも環境的にも最低限のコストで世界の残る需要を満たせる大手企業に集約されることになる。

こうしたエネルギー転換は起こらないのではないかと気をもむ環境活動家も多い。だが石油需要が減少していくとの見方は、実はアラムコの戦略および同社の投資家に対する売り込み文句と一致している。アラムコの産油コストは1バレル当たり3ドルと、ほぼいかなる企業よりも低い。原油生産に伴うCO2排出量も業界内で最も低い。アラムコは現在、川下の石化製品へと事業を拡大し、長期にわたる顧客をアジアで確保しつつある。8月にはインド大手財閥リライアンス・インダストリーズ(RIL)の石油化学部門に150億ドル出資した。サウジは投資家に、アラムコはどんな事態に陥っても安定して配当を払い続けると約束している。これは今後、石油需要が減っても、アラムコは最後まで競争力を維持するとのメッセージだ。

■エネルギー市場の縮小は地政学的混乱招く

地球環境の改善は全ての人が望むところだ。だが、石油業界が縮小しつつあるという事実は、エネルギー市場と地政学的な混乱は収まるどころか、増える恐れがあることを意味する。

まずエネルギー関連市場をみるといい。楽観シナリオでは、供給と需要が相前後して徐々に減るのに伴い生産コストが下がり、石油価格も下落する。だが、16兆ドルに上る資本と1000万人以上の雇用を抱える業界の縮小は容易には進まないだろう。油田はおのずと激減するため、設備投資が干上がり、価格急騰を引き起こす可能性もある。

石油各社やサウジを含む各国は、供給を抑えて利益と税収を確保するか、それとも市場シェアを奪うため、利益率が下がってしまう前に生産量を増やすか選択を迫られるだろう。生産コストの異なる産油国が混在する石油輸出国機構(OPEC)は、崩壊する可能性がある。また稼働している油田が減るのに伴い、テロや事故で供給が断たれるリスクも高まる。

政治への影響も甚大だ。世界銀行によると、国内総生産(GDP)の5%以上を石油収入に頼る国は26カ国に上る(その26カ国の平均依存度は18%)。経済の論理に従えば、アルジェリア、ブラジル、カナダ、ナイジェリア、ベネズエラなど生産コストが高く、CO2排出量も多い産油国は生産を徐々に減らさざるを得ない。だが、これは痛みを伴い、壊滅的な打撃を受ける国も現れるだろう。

■サウジで革命起きるか侵略されるリスクも

一方、全エネルギーの40%を石油に依存する米国の石油依存は続く。米国の需要はテキサス州パーミアン盆地を含むシェールブームにより満たされてきた。だが、水圧破砕法(フラッキング)は温暖化への影響がCO2より大きいメタンガスの排出が多いうえ、新たな油井を掘るには石油価格が1バレル40~50ドルでなければ採算がとれない。これはアラムコの採算ラインの倍以上の高さだ。気候変動の抑制とエネルギー効率を考えると、シェール業界は縮小していくべきだ。だがその場合、米国は政治が内向き志向を強める中で、外国産石油への依存度を高めることになる。

ではサウジはどうなるのか。アラムコは投資家に埋蔵量が莫大で、産油コストが低く、比較的クリーンだと売り込むだろう。大半は事実だが、サウジの若年失業率の高さや不透明な王政には触れないだろう。IPOがもたらす巨額資金がサウジ経済の近代化を後押しするかもしれないが、しないかもしれない。30年後に生き残る最後の石油メジャーとしてアラムコに資金を投じる投資家は、サウジ国内で革命が起きるか、あるいは他国から侵攻されるリスクについても考える必要がある。

アラムコ上場は石油の時代に終わりが見えてきた兆しであると同時に、政治や経済に大混乱を及ぼす石油の威力が今後数十年、衰えないことを示している。

(c)2019 The Economist Newspaper Limited. November 2, 2019 All rights reserved.

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