美走・快走・楽走

フォローする

マラソンの成否のカギ、尺度の引き出しにあり
ランニングインストラクター 斉藤太郎

2019/11/5 3:00
保存
共有
印刷
その他

目標の大会を控えた方が多い季節です。ランナーにはきちょうめんで、メニューを予定通りにこなしたい方がとても多いという印象を受けます。予定を変えざるをえない状況に出くわした際、強いストレスを抱えてしまいがちです。緊張が伴う調整期にはその傾向が強くなります。今回は、ランナーとして自分をどう保つかについて考えてみたいと思います。

外的コンディションが整わないとき

今年の夏は猛暑が続きました。これからの季節は体が冷えてしまう雨に遭遇することが出てくるでしょう。まともにトレーニングをできそうにない場合に、どう対処すべきでしょうか。

(1)距離やラップとは別の尺度で走る

5キロを30分間走、10キロを60分間走といった時間尺度に置き換え、ラップタイムを気にせずに走るスタイルがよいでしょう。1キロのインターバルでしたら「3~5分間ペースアップ」、その後「2分間ゆったりペースのランニングで回復」。これを複数回繰り返す形です。

雨のときはレインウエアなどを着て走ることになります。動きに制約が出たり、路面が滑りやすいこともあったりしてスピードが出にくくなります。それにもかかわらず予定通りのペースを守ろうとすると、力みが生まれて筋肉のこわばりや故障につながることもあります。ですので、タイムやラップを気にせず、スピードはご自身の感覚でコントロールして走ってみてください。

強風など厳しい天候のときは心拍数を基準に運動強度をコントロールする方法もある

強風など厳しい天候のときは心拍数を基準に運動強度をコントロールする方法もある

心拍数を尺度にする方法もあります。フルマラソンペースで走るときの心拍数は個人差があり、一概には断言できないのですが、初心者やそれほど走り込んでいない方は1分間に130拍くらいです。中級の方で130~140拍くらい、上級者ですと140~160拍くらいと私の経験値から提示します。これは運動強度約70%に値します。暑さや雨、強風など厳しい天候のときには思ったようなスピードでは走れませんので、タイムよりもフルマラソンペースのときと同じような心拍数を基準に運動強度をコントロールして走る方法もあります。

(2)走れる日に練習をこなす

大切な練習をしたい日の天候が芳しくないようでしたら、順序を変えましょう。予定を前倒しし、やれるときに大切な練習を消化してしまうことです。当初立てた計画に固執し、雨の中を無理して走っても体のダメージが深くなり、風邪を引くこともあります。柔軟に計画を変更できる人はよい結果を残すものです。

自分のコンディションが整わないとき

体調が芳しくない、走る気力が湧かないといった際にはどうすべきでしょうか。いつも好調というわけにはいきません。その時にできる運動をしましょう。まずはシューズを履いて外に出ること。散歩でも構いません。いつもと違う景色のコース取りも効果的です。深呼吸をし、歩くだけでも脚の筋肉を伸縮させます。筋肉のポンプによって血液が酸素を体中に運搬してくれます。心身の状態は良くなるはずです。

走ろうかどうか迷ったとき、走らなかったことで後悔したことはあるけれど、走ってみて「やっぱりやめておけばよかった」と後悔したことはない。こんなことを話されるランナーもいます。ただし、走りすぎによって心身が落ち込む状況に陥ったとしたら、それはオーバーワーク症候群です。特に疲労がたまると、弱アルカリ性の体はいつしか酸性に傾くそうです。切ったリンゴが茶色くなるのと同じで、体が酸化するのです。兆候として、肌や唇がただれたりしたら疲労の注意信号。そんな時は並行して思考回路がどこか後ろ向きになるようです。そうなる前に練習を休む選択をしてください。

ライバルを意識し自分を奮い立たせた瀬古利彦さん

2018年7月の西日本豪雨からの復興イベントとして、9月29日に広島県呉市で開催された「絆ランニング教室」に講師として招かれ、70人の小学生とトレーニングをしてきました。

イベントのメインは瀬古利彦さんによる特別講演。そこで拝聴したエピソードを紹介します。雨でいやだなと思うとき、しのぎを削っていた旭化成の宗兄弟が練習する宮崎県延岡市(旭化成の拠点)の天気は晴れ。きっとあっちでは宗兄弟が良い練習をしているはずだ、それに負けてはいけないと思って、雨の中でも大切な練習に取り組んでいました。引退してから話をすると、宗兄弟もまったく同じように、東京は晴れていて瀬古はいい練習をしているだろうから負けるわけにはいかないと思い、雨にも負けずに大切な練習をされていたそうです。

現代ではトレーニングのほとんどは科学的に解釈され、無駄を省き合理的に進められている時代です。しかし、レース中だけでなく日ごろの生活でも強さと自己コントロール力が求められるマラソンという競技は、泥くさく取り組まなくてはいけない。そして、ライバルの存在がお互いを高め合うことにつながる。こういう考えで瀬古さんは練習を積まれていたそうです。

マラソングランドチャンピオンシップ(MGC、9月15日)での五輪代表選考に向けて日本マラソン界で記録が伸び、男女で何人もの有力ランナーが育ってきた背景と照らし合わせてのお話でした。私たちも心の中にそんなライバルの存在があると、たやすく負けるわけにはいかないと思えるのではないでしょうか。

走れることのありがたみを考えてみる

ライバルに勝つことはできても、時に乗り越えがたい壁に直面することがあります。例えば自然災害です。千葉に拠点を置く私たちはここ数カ月の間に、走れないことは無論、生命の危険を感じる天災を経験しました。このたびの台風15号では練習拠点である岩名運動公園(佐倉市)が大きな被害を受けました。至る所で倒木し、大中小の折れた木々が散乱する状況でした。その時、皆が感じたのは、今はとてもではないが走る状況ではなく、別にすべきことがあるというものでした。集まれるメンバーで公園内の清掃活動に協力させていただきました。

台風15号により岩名運動公園で木の枝などが散乱した際、清掃活動に取り組んだ(千葉県佐倉市)

台風15号により岩名運動公園で木の枝などが散乱した際、清掃活動に取り組んだ(千葉県佐倉市)

ランナーにとって快走の喜びよりも、苦しいことや辛抱の時間の方が圧倒的に長いと思います。ですが、ランニングを趣味として、そうした苦楽を味わえるのは、根底に当たり前に生活を営める環境が整っているからなのだと、今はかみしめています。

その後も、台風19号と10月下旬の大雨、洪水により甚大な被害を受けました。練習環境こそ被害を免れましたが、ほんの数キロ離れた場所では今でも事後処理に追われている市民の方が多くいらっしゃいます。一日も早い復興をお祈りしています。

さいとう・たろう

1974年生まれ。国学院久我山高―早大。リクルートRCコーチ時代にシドニー五輪代表選手を指導。2002年からNPO法人ニッポンランナーズ(千葉県佐倉市)ヘッドコーチ、19年理事長に就任。走り方、歩き方、ストレッチ法など体の動きのツボを押さえたうえでの指導に定評がある。300人を超える会員を指導するかたわら、国際サッカー連盟(FIFA)ランニングインストラクターとして、各国のレフェリーにも走り方を講習している。「骨盤、肩甲骨、姿勢」の3要素を重視しており、その頭の文字をとった「こけし走り」を提唱。著書に「こけし走り」(池田書店)、「42.195キロ トレーニング編」(フリースペース)、「みんなのマラソン練習365」(ベースボール・マガジン社)、「ランニングと栄養の科学」(新星出版社)など。
「スポーツ」のツイッターアカウントを開設しました。

美走・快走・楽走をMyニュースでまとめ読み
フォローする

保存
共有
印刷
その他

ランニングのコラム

コラム「美走・快走・楽走」

コラム「今日も走ろう」

電子版トップスポーツトップ

美走・快走・楽走 一覧

フォローする
強風など厳しい天候のときは心拍数を基準に運動強度をコントロールする方法もある

 目標の大会を控えた方が多い季節です。ランナーにはきちょうめんで、メニューを予定通りにこなしたい方がとても多いという印象を受けます。予定を変えざるをえない状況に出くわした際、強いストレスを抱えてしまい …続き (11/5)

自立した地域クラブにトップランナーはもちろん、健康志向や楽しみ重視のランナーも集まる

 私が理事長を務めるニッポンランナーズ。設立の起源は女子実業団チーム、リクルートランニングクラブの2001年9月30日の休部まで遡ります。休部の理由は存在意義。「『リクルート』という社名を胸につけて走 …続き (9/12)

ランニングにコツコツと取り組めば進歩を確実に感じ取れる

 今回はランニングの技術論から離れ、生活におけるランニングの役割について書きたいと思います。プレーヤーの人数制限がある競技と異なり、ランニングの大会は制限時間こそありますが、エントリーを済ませれば誰も …続き (7/3)

ハイライト・スポーツ

[PR]