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セ・パ格差は組織力の差 DH制だけの問題にあらず
野球データアナリスト 岡田友輔

2019/11/3 3:00
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今年のプロ野球日本シリーズはパ・リーグ2位のソフトバンクがセ・リーグ優勝の巨人に4連勝と圧倒した。ON対決以来19年ぶりとなる注目の顔合わせだったが、あらゆる面で力の差は歴然としていた。直近10年の日本シリーズはパ・リーグの9勝1敗。両リーグの格差は簡単には埋まらないところまで開いてしまった。

日本シリーズ3連覇を果たし、沈黙する巨人ベンチの前で喜ぶソフトバンクナイン=共同

日本シリーズ3連覇を果たし、沈黙する巨人ベンチの前で喜ぶソフトバンクナイン=共同

救援陣の力量差は特に目立った。ソフトバンクのブルペンには石川柊太、甲斐野央、リバン・モイネロ、森唯斗らがひしめき、後ろにいくほど好投手が控えていた。巨人救援陣の直球が3割しか150キロを超えなかったのに対し、ホークス救援陣は7割が150キロ超。迫力ある投球でセ最多得点の巨人打線をねじ伏せた。

シリーズの結果を踏まえ、にわかに高まっているのがセでの指名打者(DH)制導入論である。打撃専門の強打者がいれば打線が厚みを増し、それと対峙する投手たちの力量も上がる。セ・パ格差の要因はDH制の有無にあり、セでもDH制を導入すれば、差は縮まるはずとの発想に基づいている。

確かにDH制の導入がパに投打の底上げをもたらした可能性は高い。だが、DHですべてが解決するかといえば、それは大きな間違いだ。先日終わった米大リーグのワールドシリーズでは、DH制のないナ・リーグのナショナルズが、DH制を採用しているア・リーグのアストロズを4勝3敗で下した。直近10年でもナが6度勝っている。セ・パ格差の理由をDH制ばかりに求めたのでは、問題を矮小(わいしょう)化することになる。

たっぷり稼いでたっぷり使う好循環

日米を問わず、強いチームに共通するのは「組織としての総合力」が高いことだ。ソフトバンクも例外ではない。球団と球場の一体運営によって稼ぎ出す12球団一の潤沢な資金をチーム強化のために投資し、チームが強くなることで収益をさらに拡大させる。安定した強さを維持できるのは、親会社やオーナーが裕福だからではなく、球団自体がたっぷり稼いでたっぷり使う好循環を生み出せているからだ。

「チーム強化」とは大枚をはたいての補強ばかりではない。充実したファーム施設、次から次へと150キロ投手を生み出す育成ノウハウも必要だ。多彩な人材の獲得と厳しい生存競争を実現する3軍からは千賀滉大、甲斐拓也ら多くの主力が巣立った。ドラフトのほか、外国人、フリーエージェント、トレードと選手獲得でもすべてのチャネルをフル活用している。IT企業の強みを生かしたきめ細かいデータ収集と分析も大きな武器だ。様々な要素が組み合わさり、組織としての総合力を高めている。

ソフトバンクは甲斐野ら救援陣にも150キロ投手がひしめく=共同

ソフトバンクは甲斐野ら救援陣にも150キロ投手がひしめく=共同

対照的に巨人は、グラウンドの指揮官である原辰徳監督が編成においても大きな権限をもっている。原監督の眼力に異論を挟む余地はないが、優秀な人材がそろった組織と個人の勝負となれば、やはり前者に分がある。

「球団・球場の一体運営」「組織力を生かしたチームづくり」を特徴とするソフトバンクを大リーグ型とすれば、賃借した東京ドームを本拠地とし、名監督への依存度が高い巨人は伝統的な日本型といえる。対照的な両軍が明暗を分けたという点でも今年の日本シリーズは興味深かった。

ビジネスとしての球団経営にシフト

パ優位の現状は、球界のトップランナーが巨人からソフトバンクに変わったこととも無縁ではない。セでは複数のチームが巨人型の運営をしている。広島のように、限られた資金で勝つのをよしとする風潮も根強い。しかしパでは全球団が多かれ少なかれ、ソフトバンク型のチームづくりを志向している。札幌ドームを賃借している日本ハムが自前の新球場を建てるのも、より稼げる組織に生まれ変わるためだ。

「球団は本業の宣伝広告媒体」という意識が色濃く残るセに対し、パは「ビジネスとしての球団経営」にシフトしている。グラウンドにおけるセ・パ格差とは、組織力の差を反映したものにほかならない。

移籍市場が限られ、下位チームにドラフトの優先指名権があるわけでもない日本球界ではひとたびチーム力が落ちると、立て直すのに長い時間と大きな労力がかかる。パに水をあけられたセにも即効薬はない。組織やリーグのあり方を根本から見つめ直すところから始めてほしい。

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