優勢のイングランド キックか、動かすか(廣瀬俊朗)

決勝はイングランドが有利と考える。ニュージーランド(NZ)との準決勝で証明したように、強力なFWと能力の高いバックスを併せ持ち、戦術の幅も広い。総合力が高いチームだ。
フィジカル面は南アフリカがやや上だが、イングランドもNZに接点で勝てるだけのパワーを持つ。M・ブニポラとシンクラーの両プロップはボールを持って前に出られるうえ、短いパスも使えるので守る側にとっては厄介だ。FWの持久力でも優位に立つイングランドが、大きく当たり負けすることは考えにくい。
南アが勝利をつかむには、まずはセットプレーで上回る必要がある。イングランドのセットプレーもかなり強力だが、南アは決勝を担当するガルセス主審の笛を準決勝ウェールズ戦でも体験した。この試合、南アはスクラムから3度の反則を奪っている。直前の審判の癖を体験しているのは有利に働くかもしれない。
もう1つ勝負のアヤとなるのが戦術だ。南アは日本を下した準々決勝と準決勝で、極端なキック戦術を採った。今回もSHデクラークらが多く蹴って試合のテンポを落とし、得意のフィジカルを前面に出すだろう。
イングランドが相手と同じようにキックを使って手堅く戦うのか。あるいはパスでボールを動かすのか。どちらの戦術を採るのか、目安となるのが31日に発表された先発メンバーだ。
準々決勝のようにファレルがSOに入り、CTBに守備のいいスレードを起用していたら、イングランドはキックを多めに使う可能性が高かった。実際には準決勝と同様、SOにフォードを置き、ファレル主将をCTBに回す布陣を選んだ。2人の司令塔型の選手でボールを大きく動かすことが可能になる。
準決勝でウェールズが見せたのは、キックを多用する戦術だった。南アとのキック合戦はレベルの高い攻防ではあったが、今大会からラグビーを見始めた人にとってはやや退屈だったかもしれない。これだけ注目を浴びた大会の決勝である。イングランドがボールを動かすことで、より多くの人が楽しめる試合になってくれるとありがたい。
エディー・ジョーンズ監督は相手が嫌がることを考えることが非常にうまい人でもある。準決勝でもNZの「ハカ」の時にV字形の陣形を取り、直後のキックオフでも蹴る寸前にキッカーを代える奇襲を仕掛けた。日本代表を率いた前回大会の南ア戦では、相手の裏をかいて前半にキックを多く使っている。監督にとって悲願の初優勝が懸かる決勝で、どんな手を打ってくるのかも楽しみだ。(元日本代表主将)