大統領再選へ 米裁判所で強まるトランプ支配 (グローバルViews)
ワシントン支局 中村亮

グローバルViews
コラム(国際)
2019/11/6 23:00
保存
共有
印刷
その他

「私の支持率は共和党内で95%に達した。ありがとう!」。トランプ米大統領は10月29日、ツイッターでこう力説した。数値の信ぴょう性は不明だが、共和党員から絶大な人気を誇るのは間違いない。

トランプ米大統領の共和党内での支持率は高い=ロイター

トランプ米大統領の共和党内での支持率は高い=ロイター

共和党寄りの判断下す保守系判事

その理由の一つは、共和党寄りの判断を下す保守系判事を戦後最高ペースで裁判所に送りこんでいることだ。トランプ氏の判事任命で人工妊娠中絶に反対し、強力な不法移民対策を認める米社会の実現が近づく。共和党員が好む社会の実現こそがトランプ氏の求心力の源泉だ。

米国の連邦制度では一審の地方裁、二審の控訴裁、最終審の最高裁がある。大統領が全ての判事を指名し、議会上院の承認を経て就任する。共和党政権は保守系判事、民主党はリベラル系を指名することが一般的だ。たとえば保守系判事の場合、個人の銃保有を認め、同性婚に反対する傾向が強い。

裁判所の判断は日常生活に大きく影響するため米国民の関心は高い。有権者は自身の価値観に近い判事を求め、大統領候補を選ぶ傾向にある。CNNテレビの調査によると、2016年の大統領選では今後の最高裁判事人事を考慮して投票先を決めたとの回答が69%にのぼった。21%は投票先の決定で最重要な要素だと答えた。トランプ氏は大統領選で当選すれば最高裁判事に保守系を指名すると強く訴えていた。

トランプ氏は支持者の期待に忠実に応えている。これまでに最高裁(定数9人)で保守系判事2人を任命。保守系を5人そろえたことで、最高裁の保守化に成功した。連邦司法センターによると、政権発足から今年10月末までの約2年9カ月で控訴裁判事43人を任命した。これは同期間のオバマ政権の2倍にあたり、カーター政権(43人)と並ぶ戦後最高記録だ。最高裁に提出される訴訟案件は年1万件にのぼるが、実際には80件程度しか扱わない。控訴裁の判決が最終結論になるケースが圧倒的に多く、控訴裁で保守系判事の起用が増えれば米社会の保守化につながる。

西部9州でも相次ぐ保守寄り判決

効果はすでに表れている。全米で最もリベラルとされたカリフォルニア州など西部9州を管轄する控訴裁で今夏、保守寄りの判決が相次いだ。妊娠中絶ができる医療機関を女性に紹介する組織を対象とした資金支援をトランプ政権が停止すると、控訴裁はこの決定を容認した。第三国からメキシコ国境に到着した人々の難民申請を拒否する政策も部分的に認める判決を出した。

西部9州の控訴裁はリベラル派が16人、保守派が12人の判事が務める。リベラル系が過半数を占めるが、米メディアによると保守系は18年秋から倍増した。控訴裁ではランダムに選ばれた判事3人が第1段階の判決を下し、その後に必要に応じて11人の判事で追加審理する。保守系判事が増えると保守系が判決に関わる可能性が高まる。実際、今夏の中絶に関する資金支援の審理では、第1段階に関わった判事全員が保守系、2段階目では11人中7人が保守系だった。

勝訴して政策進めるのがトランプ流

カバノー最高裁判事は、女性への性的暴行疑惑が絶えない=ロイター

カバノー最高裁判事は、女性への性的暴行疑惑が絶えない=ロイター

トランプ政権が戦後最高ペースで保守系の起用を推進できるカギは2つある。1つは最高裁判事の承認に必要な賛成票を上院(定数100人)で60から51に下げた点だ。現在の勢力図では共和党議員が全員賛成すれば判事を承認できる。控訴裁判事を巡っては、15年に上院多数派を握った共和党はオバマ政権が指名する判事の承認を相次いで拒否した。オバマ政権が最後の2年間に任命した控訴裁判事はわずか2人。トランプ政権の発足時には大量の空席があったことになる。

トランプ氏は裁判所の意思決定を変えて訴訟に勝利し、政策を進める戦略を政権発足時から描いたようにみえる。支持基盤とする保守派に喜ばれる政策はリベラル派の猛反発を受けて訴訟になるからだ。米ミシガン州マーケット大によると、2つ以上の州政府が共同で起こしたトランプ政権に対する訴訟は、10月中旬時点で合計91件。オバマ政権の8年間(78件)をすでに超えた。ビジネスマン時代に不動産業で多くの訴訟を起こされても生き残ってきた教訓を踏まえたトランプ流の政権運営だ。

リベラル派の代表格、ギンズバーグ最高裁判事には健康不安説がある=AP

リベラル派の代表格、ギンズバーグ最高裁判事には健康不安説がある=AP

野党・民主党は焦りを隠さない。20年11月の大統領選の指名争いを繰り広げる民主党の上院議員ウォーレン氏やハリス氏は最高裁判事の増員案を掲げる。判事は終身制のため迅速にリベラル派が多数派となるには増員が必要だとの強硬論だ。また、トランプ政権下で承認され、女性への暴行疑惑が絶えないブレット・カバノー最高裁判事に対しては、サンダース上院議員が弾劾訴追を検討すべきだと訴えている。

法廷の保守系支配は数十年続く

ここにきての最大の懸念はリベラル派の代表格のルース・ギンズバーグ最高裁判事(86)の去就だ。同氏の若き日々を描いた映画「ビリーブ 未来への大逆転」(2018年、原題は「On the Basis of Sex」)はヒット作となったが、高齢ということもあり今年8月下旬までに4回のがん治療を受けて健康不安説が広がる。仮に同氏が退任すればトランプ氏が後任に保守系を起用するのは確実だ。最高裁判事9人のうち6人が保守派となり、保守系支配が決定的になる。

トランプ氏は再選しても25年1月にホワイトハウスを去る。だがトランプ氏が任命した保守系判事は数十年にわたって法廷で米社会の保守化を進めることになるだろう。

保存
共有
印刷
その他

関連キーワード

電子版トップ



[PR]