イスラエル、外資監視の諮問委設置 中国の軍事転用警戒
【カイロ=飛田雅則】イスラエル政府は30日、外国企業によるハイテク分野などへの投資の可否を審査する諮問委員会を設けると決めた。同盟国の米国による設置要請を受け、中国からの投資を重点的に監視するもようだ。米国は中国が買収・出資したイスラエル企業から先端技術を入手し、軍事転用することを懸念していた。

イスラエル首相府の声明によると、設立を決めた諮問委員会は財務省が主導し安全保障の観点から外国投資を認めるかどうかを判断する。監視対象は通信、インフラ、運輸、金融、エネルギー分野で、2020年1月の活動開始を目指す。委員会は財務、国防、外務や国家安全保障委員会などの代表者が参加する。

米国はイスラエルに対し、中国との関係見直しを迫ってきた。ムニューシン米財務長官が28日にイスラエルを急きょ訪問し、委員会設置についてネタニヤフ首相と最終調整した。現地報道によると、トランプ米大統領は3月、中国との関係を再考しなければイスラエルへの軍事支援や情報共有を見直すとネタニヤフ氏に警告したという。
米国は中国が買収したイスラエル企業から人工知能(AI)やサイバーセキュリティーなどの技術を手に入れることを警戒する。中国がイランに技術を移転しかねないとの懸念もある。
ネタニヤフ氏は中国からの投資受け入れを進めてきた。調査会社のIVCリサーチセンターとジャコーレによると、中国のイスラエルへのハイテク分野への投資は13年に7600万ドル(約82億円)だったが、18年は1~9月だけで3億2500万ドルと急拡大した。同時期のイスラエルへの外国投資全体(金額ベース)の30%弱を占める。
中国は広域経済圏構想「一帯一路」の一環でインフラ投資も拡大する。中国政府が過半を出資する上海国際港務集団(SIPG)は21年から、イスラエル北部のハイファ港を25年間にわたって運営する契約を結んだ。中国の報道によると拡張工事に20億ドルを投じる。
ハイファ港付近には米海軍第6艦隊の艦艇が燃料補給などで寄港する。中国が港の管理を始めれば、情報収集システムでスパイ活動をする恐れがあるとみている。イスラエルのメディアによると、米政府は今夏から中国との契約を見直すように求めていたという。
中国側との投資交渉を多く扱ってきたサイモン・ワイントラブ弁護士は「最近、中国からの投資の受け入れを拒否するイスラエル企業が出ている。米国市場で事業ができなくなることを懸念している」と指摘する。
米国の中東政策の変化もイスラエル政府の対応を促した。トランプ氏は10月上旬に声明を発表し、シリア北部から米軍の撤収を始めた。地域安定の「重し」だった米軍の存在がなくなれば、イスラエルは敵対するイランの脅威が高まると懸念する。イスラエルは米国の要請を受け入れ、つなぎ留めを図る思惑もある。
ネタニヤフ氏は4月の総選挙後に続き、9月の再選挙後の連立交渉も失敗した。ライバルの中道野党連合「青と白」のガンツ元軍参謀総長による連立協議も難航が予想され、3度目の総選挙が現実味を帯びる。
汚職疑惑を抱えるネタニヤフ氏は、米大使館のエルサレム移転やゴラン高原の主権承認などトランプ氏から選挙で側面支援を受けてきた。ネタニヤフ氏は再々選挙に向けてトランプ氏からさらなる援護を引き出す意図もありそうだ。