サムスン半導体受託生産、TSMCに挑む 先端品を量産
5Gにらみ年間1兆円投資

アジアBiz
2019/10/31 13:27
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サムスンはソウル郊外で半導体工場の拡張を進めている=同社提供

サムスンはソウル郊外で半導体工場の拡張を進めている=同社提供

【ソウル=細川幸太郎、台北=伊原健作】韓国サムスン電子が半導体受託生産の分野で、巨人の台湾積体電路製造(TSMC)に真っ向勝負を挑む。毎年1兆円を投じて次世代の生産技術「EUV」による量産体制を固め、10年ほどかけてTSMCの世界首位の座を狙う。サムスンとTSMCという2強が半導体の進化で競えば、幅広い産業の技術革新につながる。

サムスンが10月31日に発表した2019年7~9月期の連結営業利益は前年同期比56%減の7兆7800億ウォン(約7280億円)で、売上高は5%減の62兆ウォンだった。主力の半導体事業の営業利益は3兆500億ウォンと、前年同期比で78%減だったが、前四半期と比べると10%減で、減益幅は縮小した。

韓国SKハイニックスや旧東芝メモリなど世界の半導体メモリー競合他社が回復に手間取るなかで、サムスンに持ち直しの動きが見えるのは売上高で年間1兆3000億円の受託生産事業を手掛けているためだ。7~9月期の同事業の売上高は前四半期比で14%増と2ケタ成長を続けており、メモリー価格の下落にともなう業績悪化を受託生産事業が下支えした。

「メモリーに続いて、受託生産を含めたシステム半導体でも確実に1位になる。必ずやり遂げる」。サムスンを率いる李在鎔(イ・ジェヨン)副会長は強調する。同分野の生産設備と研究開発で毎年1兆円を投じると表明した。浮き沈みの激しい半導体メモリーに並ぶ収益の柱として、大規模集積回路(LSI)などを扱う受託生産事業を世界首位に育てあげる考えだ。

李氏が勝算を見込むのは受託生産の先端競争が新たな局面を迎えているためだ。半導体の性能を飛躍的に高められるEUVと呼ぶ新生産技術が普及期に入り、メモリー事業で培った生産技術を応用できる。さらに今後は次世代通信網「5G」対応で高性能な半導体の需要が急拡大する見通しで、TSMCだけでは世界的な需要増に対応できないという読みもある。

ソウル郊外の華城(ファソン)工場内の新棟ではEUV露光装置の稼働準備を進めている。半導体の設備投資に19年1年間で約2兆円を投じる計画で、来年初頭にも本格稼働を始める。業界関係者によると、米クアルコムの最先端のスマートフォン用CPU(中央演算処理装置)を量産する見通しという。

サムスンはメモリーに次いで受託生産でも世界首位を目指す(ソウル郊外の半導体工場)=同社提供

サムスンはメモリーに次いで受託生産でも世界首位を目指す(ソウル郊外の半導体工場)=同社提供

サムスンは今春から自社のスマホ用CPU向けにEUV技術を活用しており、受託生産にも応用する。EUVを使って半導体回路の集積度を高めれば既存の生産方法と比べて処理速度や省電力性能を2~3割程度向上できるという。

ただ受託生産で世界半分のシェアを押さえる王者のTSMCは先を行く。既にEUV技術を活用した回路線幅7ナノ(ナノは10億分の1)メートルの半導体を顧客向けに安定量産する。10月17日の決算発表で年内の投資金額を唐突に50億ドル(約5500億円)も積み増しを明らかにしたのはEUV技術への自信の裏返しだ。米アップルの次世代iPhone向けの先端半導体の受注も確定しており、今のところ死角は見えない。

TSMCの強みは絶えず投資を続ける生産設備や量産技術だけではない。設計支援部門の技術者を数千人規模で抱えており、顧客の回路設計をサポートしながら自社工場での安定量産への橋渡し役を担う。汎用製品である半導体メモリーが主力のサムスンに足りないのが、この多品種に対応できる設計技術の蓄積だ。

サムスンが世界一に登り詰める目標を「2030年」と定める理由もこのあたりにありそうだ。10年あまりをかけて設計技術を育てる計画で、既に米シリコンバレーの拠点を中心に回路設計の技術者獲得を進めている。

もう一つの不安要因が日本政府による輸出管理の厳格化だ。対象3品目のうちEUV用レジストは不可欠で代替調達は難しいとされる。現時点では安定調達しているものの、将来的に調達が困難となる可能性もある。

受託生産で5割超のシェアを持つTSMCに挑む構図のサムスン。両社はともに「EUV技術で7ナノの半導体を量産したのは当社だ」と主張する。この勝敗を検証するのは難しいが、そこには自社の技術力への強烈な自負心がのぞく。アジアの半導体2強が火花を散らす先端開発競争は当面続くことになりそうだ。

 ▼EUV露光 半導体の微細な回路をシリコン基板上に形成する露光技術の一つ。光源に波長が13・5ナノ(ナノは10億分の1)メートルと極めて短い極紫外線(EUV)を利用する。光源の波長が短いほど微細な回路を形成でき、半導体の性能を一層高められる。ただ技術的なハードルが高く、装置を完成させたのはオランダのASML1社のみ。キヤノンニコンは開発を断念した。

●微細化、3社以外は脱落

半導体は、回路線幅が細ければ細いほど演算処理や記憶容量の性能が上がり消費電力も下がるため、半導体メーカーは微細化技術を競ってきた。2010年ごろから技術発展が停滞し始めていたが、EUV露光という新たな技術が登場し、現在の限界を超える突破口として期待されている。

EUV露光装置はオランダのASMLが独占して1台150億円とされ、生産ラインを組めば数千億円規模が必要で、資金力と技術力がないと投資に踏み切れない。

受託生産世界3位の米グローバルファウンドリーズは巨額負担に耐えきれず、回路線幅で14ナノ(ナノは10億分の1)メートル以降の開発を断念した。4位の台湾聯華電子(UMC)も前進できていない。

巨額の投資が可能なのは、サムスンとTSMCに米インテルを加えた「半導体ビッグ3」に絞られてきた。

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