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地位低下進む長距離戦 レースの「質」確保が重要に

2019/11/2 3:00
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10月20日に行われた3歳クラシック三冠の最終戦、第80回菊花賞(G1、京都芝3000メートル)は武豊騎乗のワールドプレミア(牡、栗東・友道康夫厩舎)がG1初制覇を飾った。インコースを距離のロスなく回る、絶妙な手綱さばきをみせた名手の腕など、見どころもあったが、気になったのは出走メンバーの低調さ。長距離戦の地位低下が改めて浮き彫りなった。

第80回菊花賞は見どころもあったが、低調なメンバー構成だった(10月20日、京都競馬場)=共同

第80回菊花賞は見どころもあったが、低調なメンバー構成だった(10月20日、京都競馬場)=共同

「このメンバーでG1といえるのかな」。これはレース前に今回の菊花賞の顔ぶれを見た、ある騎手の言葉である。実際にこの騎手と同じ感想を持った競馬ファンも少なくなかったはずだ。

今回は春の2冠を勝った馬が不在。皐月賞(G1、中山芝2000メートル)を勝ったサートゥルナーリア(牡、栗東・角居勝彦厩舎)は菊花賞トライアルの神戸新聞杯(G2、阪神芝2400メートル)を制したが、長距離を嫌って2000メートルの天皇賞・秋(10月27日、G1、東京)に駒を進めた。日本ダービー(G1、東京芝2400メートル)優勝のロジャーバローズは故障ですでに引退。もう一つのトライアル、セントライト記念(G2、中山芝2200メートル)を勝ったリオンリオン(牡、栗東・松永幹夫厩舎)は脚部不安で菊花賞を回避した。

出走18頭のなかにG1馬はおらず、重賞勝ち馬も3頭だけ。押し出されるような形で単勝1番人気となったのは、重賞未勝利ながら、春に皐月賞で2着、ダービーで3着に入った実績のあるヴェロックス(牡、栗東・中内田充正厩舎)だった。ただ、地力の高い同馬にとって、この距離は適性外。そうした面も考慮すると、今年の菊花賞は低い水準での混戦といった様相であった。実際、ヴェロックスは「長かったと思わざるを得ない」(騎乗した川田将雅)という3000メートルが響いたのか3着に敗れた。

スピードタイプ馬、資金回収が早く

長距離戦の地位低下が叫ばれるようになって久しい。かつては「皐月賞は速い馬、ダービーは運のいい馬、菊花賞は強い馬が勝つ」といわれるほど、菊花賞はレベルの高いレースだった。しかし、いまは見る影もない。

国内にもう一つある3000メートル以上のG1、天皇賞・春(京都芝3200メートル)も例外ではない。こちらも今年の出走馬の水準は低く、G1馬は2018年の菊花賞を勝ったフィエールマン(牡4、美浦・手塚貴久厩舎)しかいなかった。同馬の優勝で何とかG1の面目を保ったものの、2000メートルの天皇賞・秋が出走16頭中、G1馬10頭という、19年のレースの中で最高に近い水準のメンバーを集めたのと比べると、寂しい顔ぶれだった。

長距離戦が重視されなくなっているのは世界的な潮流である。一般的にスピードタイプの馬の方が成長が早く、早い時期からレースで活躍できる。馬を買った資金の回収も早くなる。

そのため、生産界ではスピードタイプの種牡馬の需要が高まった。現役時代に長距離戦を勝ったとしても、引退後の繁殖馬としての価値は上がらない。欧州などでも、好走すると評価の高まる1600~2000メートル級のレースに強い馬が集まる。長距離戦は出走頭数の減少や出走馬のレベルの低下が進み、レースとしての魅力も乏しくなっている。

欧州で長距離戦活性化の取り組み

その欧州では近年、長距離戦を活性化させる取り組みを進めている。レースの格を上げたり、賞金を増額したりして魅力を高め、長距離馬の生産や取引を活発にさせようとしている。

17年には夏のグッドウッドカップ(英グッドウッド、芝約3200メートル)をG1に格上げ。19年にはフランスのパリロンシャン競馬場で行われる牝馬限定のロワイヤリュー賞をG2からG1に昇格させ、距離も芝2500メートルから芝2800メートルに延長した。13ハロン(約2600メートル)以上の長距離重賞は、たとえレースのレベルが低くても、22年までは降格させないという特例も取り入れられている。

長距離戦のテコ入れの大きな目的は、遺伝的な多様性の確保である。障害競走が人気を集める英国では特に危機感が強い。長い距離を走る障害レースは、平地の長距離馬の子供も多い。スピード血統に偏ってしまうと、障害の距離を走れる馬がつくれなくなると懸念する声も上がる。

長距離戦の充実に取り組む欧州と比べても、日本の長距離戦の地盤沈下は進んでいる感がある。欧州は長距離戦のレベルが低下しているとはいえ、裾野は広い。欧州の今年の425の重賞のうち36は距離が14ハロン(約2800メートル)級以上。重賞以外をみても、英国では平地競走の6%程度は14ハロン以上で行われている。

一方、日本国内の129の重賞のうち、14ハロン級以上は5つしかない。重賞以外では1月に行われる万葉ステークス(京都芝3000メートル)だけだ。平地の全レースに占める割合は0.2%にすら届かない。レースの施行時期も2つのG1以外は12月~翌年3月と冬場に偏っている。日本は障害が盛んな英国などとは事情が違い、長距離戦の振興策が必要かどうかは議論の余地が大きい。だが、構造的に長距離馬の層が薄くなりやすいのは確かだろう。

日本ダービーやジャパンカップ、有馬記念と国内の高額賞金のG1は2400メートル級のレースが多く、国内のこの路線の馬の水準は世界でもトップクラスである。2400メートル級で強さを誇る一線級の馬が、天皇賞・春や菊花賞に参戦するときはレースの水準が上がるが、そうした馬の出走がない場合は、長距離馬の層の薄さから一気にレベルが下がる傾向にある。

レースの水準を示すレースレーティングでみると、菊花賞は16年に118.50だったのが、ダービーの上位3頭がそろって不在だった17年は115.25に下がった。

レース直後に発表された今年の菊花賞のレースレーティングも114.50と低い。G1の目安は115以上である。レースの評価は上位4頭がその年に出した最高値を平均した「ファイナルレート」を基準としており、今回の4着以内に入った馬が年内のレースに出走し、高いレートを出せば、菊花賞の数値が上昇することもある。だが、現段階では18年の117.25と比べると大きく下がった。安定したレベルの確保が長距離戦では難しいことを示している。

天候や出走頭数などの関係もあり、一概にはいえないものの、前年よりレースレーティングが大きく下がった年は馬券の売り上げも下がることが多い。今回の菊花賞も前年比11.7%減少。今年の天皇賞・春も3.1%減った。安定したレースの質の確保は売り上げ面からも重要といえる。

すぐに長距離戦の出走馬の水準を向上させるのは難しいだろうが、3歳限定の菊花賞を4歳以上にも開放し、春秋に長距離タイプの古馬が活躍できる舞台を用意するなどの対策を取れば、長距離馬の層も少しは厚くなるのかもしれない。

(関根慶太郎)

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