視覚頼らず古代体感 奈良でユニバーサル・ツーリズム
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2019/10/31 7:01
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奈良県で10月19~20日、視覚障害者と健常者が参加する「ユニバーサル・ツーリズム」の実践ツアーが催された。テーマは「五感で楽しむ日本の歴史」。視覚に頼らず、手や足の感触、耳や鼻などの感覚を研ぎ澄ませて古代の歴史を味わおうとの企画だ。1泊2日の行程に参加してみた。

丘陵上に約600基もの古墳が集積する橿原市の新沢千塚古墳群。白杖を手にした障害者と健常者が一緒に小型円墳の群れを"縦走"した。「本当にすぐ隣だね」。歓声を上げて道なき墳丘を幾つもよじ登り、その密集ぶりを体で感じた。

■様々な垣根越え

ツアーを実施したのは「ユニバーサル・ミュージアム研究会」。障害や年齢、性別、人種など様々な垣根を越えて誰もが楽しめる博物館づくりを目指し、研究者や博物館関係者、視覚障害者らが参加している。代表の広瀬浩二郎・国立民族学博物館准教授は全盲の文化人類学者だ。

今回の2日間のプログラムを練ったのは奈良県立橿原考古学研究所付属博物館の北井利幸さんや歴史に憩う橿原市博物館の松井一晃さんら。参加した約20人のうち、広瀬さんを含め5人が全盲や弱視の障害者だ。

まずは博物館で新沢千塚などの出土品の模型を手に取り、形状を探った。複雑な竜の文様を触感で判別できるようにした冠飾りの模型は松井さんの手作り。「これが竜の頭だな」。感想を述べ合い、手のひらの記憶が冷めないうちに古墳群の現地へ向かった。

続いて訪ねたのは全長300メートルを超す前方後円墳、見瀬丸山古墳(同市)だ。大阪府の美術家、岡本高幸さんがひとくちサイズで墳丘を緻密に再現した手製のアメを配ってくれた。形を舌先で追いながら墳丘を歩いて1周し、巨大な古墳を口と足で味わった。

日没後、万葉集に登場する飛鳥川の飛び石(岩橋、明日香村)を訪ねた。「明日香川 明日も渡らむ 石橋の 遠き心は 思ほえぬかも」。闇の中、川の流れの音に乗って朗唱が響く。

2日目は明日香村巡りだ。飛鳥板蓋宮跡では宮殿の石敷き遺構を足で検分。約800メートル北に当時、水時計が置かれた水落遺跡がある。その近くの飛鳥寺の鐘を鳴らしてもらい、古代チーズ「蘇」に舌鼓を打ちつつ、秋空に響く時を告げる音を追体験した。

現地を訪ね、歩いて大きさを測り、手で触れて形を確かめ、風に吹かれて土地の匂いを知る。北井さんは「博物館では伝えきれない情報を五感全てでつかめば、古代のイメージがより具体的になる」と語る。

■「目に見えぬ波」

視覚以外の感覚を総動員するよう工夫したプログラムだが「障害者向け」ではない。参加者は障害の有無にかかわらず体験を共有し、発見を語り合って互いに学んだ。京都市の美術家、前川紘士さんは「広瀬さんらに刺激を受け、触りたい欲求が促された」。東京都の全盲の会社員、安原理恵さんは「手作り模型が印象的だった」と満足げだ。

従来、こうした取り組みは福祉の領域で語られがちだったが「ユニバーサルとバリアフリーは違う」と広瀬さんは指摘する。「現代社会は視覚偏重だ。視覚で得る情報は量が多いが、人や物が発する『目に見えない波』を体で捉える感性とは質が異なる」。異質の情報の価値を1つの異文化として認め、対等な交流を育む発想が求められている。

同研究会は近年、博物館の外での展開に力を入れている。これまでに大阪の商店街などで街歩きツアーなども実践してきた。目指すは観光や街づくりとの連携だ。多文化の共生を目指すユニバーサルの思想は、高齢化やグローバル化を背景に街を訪れる層の裾野を広げ、地域の活性化が期待できる。東京五輪・パラリンピックをてこに、活動をさらに広げていこうと広瀬さんらは意気込む。

(編集委員 竹内義治)

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