就活は面接官動かしてナンボ 元お笑い芸人の面接道場
(1)自己紹介編

就職活動で最も大事なこと、それは対面でのコミュニケーション。「面接コワイ……」を「面接楽しい」に変えるため、面接道場を開講します。講師役は、元お笑い芸人で現在は人材研修などのコンサルティングを手掛ける中北朋宏さん。お笑いで身につけた相手の心をつかむ極意を就活生にフィードバックしていきます。初回は、簡単なようで難しい自己紹介編です。
今回、面接道場の門をたたいたのは都内有名私立大学3年の男子学生で、不動産業界を志望するAさん。緊張の面持ちで自己紹介に臨んだ。自分をアピールすることに苦手意識を感じているという。
私は自分の性格をお節介だと思っています。私はこれまで色々なことに興味を持って体験してきました。例えば中高ではバレーボール、大学ではオーケストラに入ったり、マジック研究会を立ち上げたり、バンドもやっていました。大学では地方のB市で役所の方も巻き込んで地域活性化にも取り組みました。そういったことを立ち上げるだけだったら誰にでもできると思うんですけど、楽しいものに出会うと、人に教えたくなる性格なんです。面白いなあと思ったことは友達に、「これやろうぜ」と言って巻き込むようにしている。だから自分ではお節介だと思っています。しかし一方で、自分の短所としましては、中途半端だなと思っていて、色々なものに手を出しては完遂する力がないなと自分では思っています。それを社会人になったら完遂する力、初志貫徹力を自分では磨きたいなと思っています。以上です。
自己紹介で面接官にどう思ってほしいのか
中北 これって相手をどういう気持ちにさせたくて話しているんですか?

就活生A 引っかかりそうな言葉を使うことで、心地よい違和感みたいなものを目指したのですが……。
中北 その会話自体が違和感ですね(笑)。
A 「それって何?どういうこと?」って聞いてもらえるんじゃないかなと思い、例えば「初志貫徹力」みたいな造語も使ったのですが……。
中北 なるほど。率直に言っていい?
A はい
中北 イマイチですね(笑)。
A ……まあ、その通りですね……。
中北 これ、自己紹介なのに短所しか言ってないよ、お節介で中途半端って(笑)。
A マイナスイメージですね……(顔が暗くなる)
中北 そうだよね(笑)。すごくもったいないと思うよ。理想は、面接官に疑問を抱かせて質問させるんじゃなくて、「興味を持ってもらう」ことです。
問題点を整理すると2つあります。(1)情報量を詰め込みすぎて、具体的に何が伝えたいのかわからなくなってしまっている。(2)自己紹介で「何を話すか」を考えていて、自己紹介を通して「相手にどう思わせたいか」という目的がない。
相手が主語じゃないとコミュニケーションって、絶対にエラーするんです。そこから逆算してトークを作っていないんです。こういう失敗パターンはプレゼンでもよくあります。
アタマのいい学生の落とし穴「難しい言葉を使いたがる」
中北 「中途半端」っていうオチも、致命的だからやめたほうがいいです。お節介なうえに中途半端と言われると、巻き込んだ上に放っておくみたいな印象を受けます。
Aさんが志望するデベロッパーという業界は街づくりをしますよね。デベロッパーという業界に限らないとは思いますが、例えば、街づくり途中で放り投げて、廃虚にされたらどうしようって、私が面接官なら思います。企業はどんな人材を求めているんでしょうか。そこから逆算して自己紹介を作っていますか?
あと「初志貫徹力」っていう言葉を知っている人がどのぐらい世の中にいると思いますか?

A それは自分の造語ですが、初志貫徹という言葉自体はみんな知っていると思ったので……。
中北 頭のいい人でよくあるケースなのですが、人にわかりにくい言葉を使ってしまうことで、せっかくの話が伝わりにくくなっています。
芸人が自分から笑顔をつくる合理的な理由
中北 内容以外に、表情についても、2つフィードバックがあります。まずは自分から笑顔で話すこと。芸人さんは自分からよく笑います。相手に笑ってもらいたいからです。そのためにそういう空気感を演出しているんです。
笑いをとる、まではいかなくとも、和やかな雰囲気にしたければ自分がまず笑顔になるというのは、シンプルですが大事なテクニックです。
2つ目は、何か自分にとって都合の悪い情報やフィードバックを受けたときの表情。今まさに私からフィードバックした際に、ちょっと受け入れられないような表情をされていますよね。仕事ではフィードバックを受けながら成長していきます。そのフィードバックが受け入れられないと、入社しても成長しにくい人だと見られてしまい、非常に損です。
同好会を立ち上げて、オーケストラにも入って、しかも友人を巻き込みたくなるという、せっかくのエピソードが全部流れてしまっているから、改めてこの自己紹介はどういう印象をつけたいのかという目的をセットして、情報を整理した方がいいですね。持っているエピソードは一個一個強そうだから、非常にもったいない。
エピソード自体は、デベロッパーではおそらく重要な観点だと思います。詳しくは聞いてみないとわかりませんが、役所の人を巻き込んだりしたのって、普通はあまり経験できることじゃないですよね。そういう経験とか、真面目に取り組んだ姿勢っていうのは、ちゃんと言えば伝わるはずなのに、見せ方で損していると思います。しかも話し方で、プライドの高さだけが目に付いてしまう。

お笑い芸人も営業マンもトーク台本を全部覚える
中北 準備はしてきましたか?
A 全然できていなかったので……。緊張もして、うまく伝えられなかったです。
中北 「緊張する」と言いますが、緊張はした方がいいですよ。緊張しないとパフォーマンスは絶対下がりますから。緊張しないようにしたいという相談はすごく多いんですけど、それはやめた方がいいとアドバイスしています。
保険会社の営業マンの知り合いで、営業成績1位になった方がいるのですが、その人は営業トークを全部台本にして記憶するんですよ。記憶して、さらに鏡を見ながら練習する。だいたい考えるときって上向くじゃないですか。上を向いてしまったところは自分の中でインプットされてないところなので、そこをもう一回徹底的に練り直したりするんです。お笑い芸人もネタを記憶して自分たちがネタを披露している姿を映像で撮って、何度もやり直します。Aさんも内容を整理したうえで、きちんと練習すれば、必ず面接官の目に留まるようになると思いますよ。
(文・構成 安田亜紀代)
浅井企画に所属し、お笑い芸人として6年間活動。トリオを解散後、人事系コンサルティング会社に入社し、内定者育成から管理職育成まで幅広くソリューション企画提案に携わる。その後、インバウンド系事業のスタートアップにて人事責任者となり、制度設計や採用などを担当。2018年に人材研修コンサルティングなどを手掛ける株式会社 俺を設立し、社長就任。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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