マスターカードがマカロン 「コト消費」競う米企業

CBインサイツ
スタートアップGlobe
2019/11/1 2:00
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米マスターカードは高級マカロンで新たな顧客体験を提供

米マスターカードは高級マカロンで新たな顧客体験を提供


CBINSIGHTS
 米国の消費財のメガブランドが、記憶に残る特別な体験を顧客に提供する「コト消費」の要素を盛り込んだマーケティングに力を入れている。クレジットカード大手のマスターカードが菓子のマカロンを作ったり、ファストフード大手のタコベルはタコスを印象づけるホテルを用意したりするなど、これまでにない施策が消費者を魅了しているという。どのような取り組みが成功するのか、秘けつに迫った。

顧客にいかに優れた体験を提供できるかは、企業にとって最も重要な課題だ。2019年7~9月に開かれた決算発表では、幹部が「顧客体験」や関連用語に言及した回数は過去最高の2710回に上った。

日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週1回掲載しています。

これは当然といえる。顧客に素晴らしい体験を提供すればロイヤルティー(思い入れ)が高まり、売り上げ増加につながる可能性があるからだ。米コーヒーチェーン大手スターバックスのケビン・ジョンソン最高経営責任者(CEO)は19年1~3月期の業績発表でこう述べている。

「店内での体験を強化すれば、顧客とのつながりが築かれ、繰り返し戻って来たくなるような最高の瞬間が生じる」

決算発表で「顧客体験(カスタマーエクスペリエンス)」や関連用語に言及した回数(19年10月8日時点)

決算発表で「顧客体験(カスタマーエクスペリエンス)」や関連用語に言及した回数(19年10月8日時点)

にもかかわらず、米調査会社テムキンによる「顧客体験ランキング」では、米消費者の大半が消費財ブランドとの関係を「OK(まあ満足)」にとどめている。

これでは売り上げ増加は見込めない。顧客体験を「まあ満足」よりも上の段階に引き上げるには、単なる満足感にとどまらない肯定的感情をテコに顧客と有意義な関係を築く必要がある。消費財ブランドや小売り各社が顧客から肯定的な情緒反応を引き出し、顧客体験を向上させるために活用している3つの戦略「感覚に訴えるマーケティング」「良質な時間」「人間的つながり」を突き止めた。

■感覚に訴えるマーケティング

消費財ブランドは顧客の五感に訴えることで、商品やサービスとの情緒的つながりを築こうと励んでいる。

各種研究では、香りは記憶や感情を呼び起こす強力なきっかけになることが示されている。国際会議「グローバル・ウェルネス・サミット」では、買い物客は心地よい香りのする場所では15分長く滞在することが報告された。これは購入額が増えることを意味する。

こうした知見を受け、米マリオット・インターナショナルの最高級ブランド「エディション」は、米エスティ・ローダーのニューヨーク発の香水ブランド「ル・ラボ」と共同で、ホテルのトレードマークになる「紅茶とベルガモット(アールグレイ紅茶)」の香りを開発した。これをオンラインでも購入できるようにすることで、宿泊客が滞在を思い出し、再び予約したくなると期待する。

最近は、米クレジットカード大手マスターカードが、砂糖を素材にした米アートスタジオ「クリーマート(Kreëmart)」と仏有名パティスリー「ラデュレ」と提携し、「情熱」「楽観」という2つの味のマカロンを作った。味覚をテコにマスターカードを単なるプラスチック製カード以上の存在にしようとする取り組みだ。

マスターカードのラジャ・ラジャマナール最高マーケティング&コミュニケーション責任者(CMO)は「消費者の期待は大きいが、期待もしていなかったことの方が長く印象に残る場合がある」と述べている。

米マスターカードがつくったマカロン(同社提供)

米マスターカードがつくったマカロン(同社提供)

商品購入時以外でも買い物客とのつながりを維持するため、五感に訴える商品を手掛けるようになる消費財ブランドや小売りは増えるだろう。五感全てに訴えるブランド固有の体験にも目を向けてみたい。

■良質な時間

ブランドの世界観に浸る体験の提供は、顧客との良質な時間を確保することにより取引だけでは得られない形でロイヤルティーを強化できるもうひとつの手段だ。

トヨタ自動車の高級車ブランド「レクサス」はギャラリーを併設したコンセプトレストラン「インターセクト バイ レクサス」をニューヨークにオープンした。レクサス車に乗っているのと同じような感覚を再現するのが狙いだ。

米国のメキシカンファストフードチェーン「タコベル」は今夏、米カリフォルニア州のパームスプリングスで5日間限定のポップアップホテル「ザ・ベル」を開いた。このホテルの予約は2分で満席になったとされる。このホテルの特徴は新しいメニュー、水着やバッグなどのホテル限定グッズ、ホットソースのパッケージ柄のフロートマットなどタコベルをテーマにしたサービスだった。

米タコベルが開いた期間限定のホテル(同社提供)

米タコベルが開いた期間限定のホテル(同社提供)

ニューヨークの高級ジム「エキノックス」と米高級時計「シャイノラ」はブランドホテルのコンセプトをさらに進め、それぞれニューヨークとデトロイトに常設ホテルを開業した。顧客は普段よりも長い時間をブランドと共に過ごすことができる。

消費財ブランドや小売りは顧客をますますゲストとして扱うようになるだろう。つまり、顧客とブランドの関係は従来の取引だけの関係から、より親密な関係へと変わる。

■人間的つながり

各社は従業員が顧客と過ごし、個人的関係を築く機会を優先的に提供することで、より確かなつながりを育むことができる。

買い物客は人間同士の意思疎通を望んでいる。会計事務所大手プライスウォーターハウスクーパース(PwC)が実施した調査によると、テクノロジーが進化しても人間の店員との意思疎通を望むと答えた客は75%に上った。

例えば、米ウォルマートは店員がフロアの掃除や在庫チェックから解放されて接客に集中できるよう、店内ロボットの利用を拡大した。

米ウォルマートは接客時間を増やすため、店内ロボットを拡充した(同社提供)

米ウォルマートは接客時間を増やすため、店内ロボットを拡充した(同社提供)

顧客と従業員との関係構築を促すことで、企業は客の意見や要望を集めやすくなる。

米新興美容ブランド「グロッシア(Glossier)」は、全ての正社員が店舗でシフト勤務できる制度を始めた。買い物客とつながり、リアルタイムの意見や要望を得るのが狙いだ。

小売り各社が顧客を喜ばせるために接客担当の従業員の研修費用を増やす動きも注目だ。

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