政府は28日の経済財政諮問会議(議長・安倍晋三首相)で、社会保障制度改革の具体論について議論を始めた。民間議員は官民合わせて約13万床ある過剰な病床を減らすには、民間病院も再編する必要があると指摘。3年間で集中して進めるため、政府の財政支援を求めた。年末の予算編成に向け調整に入る。一方、給付と負担を大きく見直す議論はまだ見えない。
政府は団塊の世代が全員75歳以上の後期高齢者になる2025年度を目標に、病気が発症した直後の「急性期」の患者向けの病院ベッドを減らす「地域医療構想」を進めている。安倍晋三首相は28日の会議で「持続可能で安心できる地域医療、介護体制を構築するためには地域医療構想を実現することが不可欠だ」と強調した。
患者7人に対して看護師1人を配置する急性期病床は、過去の診療報酬改定で高価格に設定された。医療費が膨らむ要因の一つとされるが、現時点では削減が進んでいない。
厚生労働省は今年9月、市町村などの公立病院と日本赤十字社などの公的病院の25%超にあたる全国424の病院を「再編統合について特に議論が必要」として、病院名を公表した。ベッド数や診療機能の縮小を含む再編を地域で検討し、来年9月までに対応策を決めるように求めた。
諮問会議の民間議員は28日の会議で厚労省に対し、病床が過剰な地域では民間病院も再編の必要性を分析するように求めた。その上で、病床の整理に積極的な民間病院には「今後3年程度に限って集中再編期間として、大胆に財政支援をすべきだ」と提言した。
具体的には、病床の機能分化や介護施設の整備などを補助するため14年度に創設された「地域医療介護総合確保基金」を、再編する病院に手厚く配分する案がある。
民間病院の急性期ベッドには余剰がある。ただ、日本医師会は「民間病院と公立・公的病院が競合している場合は、公立・公的が引くべきだ」と主張する。公立病院の再編が進まなければ、民間の議論に進むべきではないとの立場だ。
一方で医療に使われるお金の総額にあたる「国民医療費」は右肩上がりで増えている。2000年度に30兆円だったのが13年度には40兆円を突破。17年度には43兆円に達した。都道府県別に見ると、病床数が多いほど1人当たりの入院医療費が高いとの傾向もある。医療費の抑制には、地域ごとに過剰な病床を減らす取り組みが欠かせない。
民間議員は薬剤師の業務の対価として薬局が受け取る「調剤報酬」の適正化や、介護現場でのロボットの活用拡大なども提言した。薬をそろえる調剤業務は機械化などで効率が上がっており、厚労省でも算定方式の見直しを議論している。
この日の諮問会議では、後期高齢者の窓口負担の引き上げや外来受診時の定額負担など、国民の負担増につながるような議論はなかった。
政府は今年の秋に諮問会議とは別に省庁横断の「全世代型社会保障検討会議」を創設。人口の多い「団塊の世代」が全員75歳以上になる25年以降を見据え、社会保障の改革を加速させる姿勢を見せているが、増税直後のタイミングにどこまで議論を進められるかは見通せない。