奈良公園、シカのそばをトラック疾走なぜ?
とことん調査隊

関西タイムライン
コラム(地域)
2019/10/29 7:01
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奈良公園で以前から気になっていることがある。訪日客やシカがゆっくりと渡る片側1車線の道路を、大型貨物トラックが頻繁に駆け抜ける風景だ。実は奈良県が大阪と名古屋をつなぐ大動脈を形成する名阪国道(国道25号バイパス)と関連づけて、改善を繰り返し陳情しているという。その背景を探った。

「名阪国道の抜本的な見直し」。県が今夏、国土交通省に持参した要望書に「整備イメージ」として新ルートが大まかに示されている。現在のルートの北側に描かれた「広域的な幹線道路」は、人口減の時代にかなり大胆な案に見える。

「これまでも名阪国道の『課題解消』は国に要望してきた。奈良公園内の国道169号に大型車が通ることを問題視した」(道路建設課)。県の担当者に尋ねると、意外な答えが返ってきた。

どういうことか。名阪国道は奈良県天理市と三重県亀山市を結ぶ約73キロの自動車専用道路。管理者は国で通行料は無料だ。天理インターチェンジ(IC)で西名阪自動車道とつながり、大阪方面に向かうことができる。ただ、西名阪は西日本高速道路会社の運営で有料。お金にシビアなトラックが天理で乗降し、国道169号を通るのだという。

県は2015年から繰り返し、国交省などに「奈良県にとって不都合な交通実態」とアピール。奈良公園の一角で14年に調査を行い、通る普通貨物車の81%が他府県ナンバーとのデータを付け加える。

5年ほどたって状況は変わっていないか。10月上旬の昼間、往来を1時間ほど観察してみた。車が途切れることはなく観光バスも多いが、トラックも40台ほど通過した。多くは「大阪」など大阪府内のナンバーで、「川口」「福山」など遠方のものも。「早朝や深夜は観光バスがいないだけに、トラックばかりが目立つ」と話す近隣の人もいた。

県は名阪国道を使う大型車への課金もあり得べきだとしている。そうすれば「不都合な実態」は解消するかもしれないし、道路の維持管理の観点からも必要、というわけだ。

そもそも、なぜ無料なのか。県内の17キロを管理する奈良国道事務所によると、国の直轄事業として整備されたためだという。

暫定2車線での供用開始は1965年。当時は山岳トンネルの標準的な工法「NATM(ナトム)」が確立されておらず、約430メートルの標高差をやり過ごすために、約7キロの間大きく蛇行する通称「Ω(オメガ)カーブ」ができた。カーブの制限速度は60キロだが、スピード超過が相次ぎ、年間300件前後の事故が発生。死亡事故率は全国の高速道、自動車道でトップクラスで、「抜本的見直し」の背景にはこうした事情もある。

今年、県が要望で用意したシナリオはこうだ。企業にはあまり注目されてこなかった奈良だが、災害リスク回避の観点から拠点を置きたいという需要がある。新たな名阪ルートは企業立地にも有益だ――。奈良には港や空港、鉄道貨物もなく、こうした県は全国でも珍しい。物流は100%道路に依存するにもかかわらず、国道と県道の道路整備率は全国46位と低迷する。

名阪国道を巡っては、同様に国道163号の京都府や三重県を通るルートにもトラックが流入しているという。帝塚山大学の蓮花一己学長(交通心理学)は「奈良公園だけなら天理ICの移動なども考え得るが、近隣府県と広域で協力して改善を要望することも有効では」と話す。

奈良のシカは大型車に慣れきってしまったのか、真横を通っても動じる気配もない。信号など関係なく気ままに横断歩道を渡り出し、心配した訪日客が付き添うように車道に出る姿も見られた。いびつな風景の裏には、道路整備と交通管理の難しさが凝縮されている。(岡田直子)

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