少女更生施設が舞台、イランのドキュメンタリー映画

文化往来
2019/11/2 2:00
保存
共有
印刷
その他

映画「少女は夜明けに夢をみる」のワンシーン(C)Oskouei Film Production

映画「少女は夜明けに夢をみる」のワンシーン(C)Oskouei Film Production

雪だるまを作ったり、雪合戦に興じたりする無邪気な少女たちを見ていると、ここが更生施設であることを忘れてしまう。イランのドキュメンタリー映画「少女は夜明けに夢をみる」(11月2日公開)は、強盗や殺人、薬物、売春などの犯罪に手を染めた10代の少女たちを収容し、集団生活で更生させる施設が舞台だ。カメラは日々の暮らしぶりを映し出すとともに、彼女たちの心の叫びを伝える。世界各地で上映され、大きな反響を呼んだ。

施設を出る少女(C)Oskouei Film Production

施設を出る少女(C)Oskouei Film Production

彼女たちは頭から体全体を覆うヒジャブを着用しているが、いわゆる"ぼかし"などの画像処理もなく、素顔をさらして心の内を語る。監督はイランのドキュメンタリー映画界を代表する存在のメヘルダード・オスコウイ。7年かけて施設に取材許可を得たという。

あどけなさを残す彼女たちの口から語られるのは、衝撃的な体験の数々だ。「名なし」と自称する少女は父が薬物で逮捕、母は家を出て、祖母と2人暮らしだった。12歳で叔父に性的虐待を受けて家出し、強盗や売春、薬物と罪を重ねた。ソマイエという少女は母と姉に相談して父を殺害。父は娘に売春させて得たカネで薬物を買い、家族に暴力を振るっていたという。兄弟たちと強盗を働いてきた少女、死刑囚を兄に持ち自らは母に激しい暴力を振るった少女、「夢は死ぬこと」とうつむく少女もいる。

映画「少女は夜明けに夢をみる」のメヘルダード・オスコウイ監督

映画「少女は夜明けに夢をみる」のメヘルダード・オスコウイ監督

長い年月をかけて取材許可を得たが、監督によれば事前のリサーチは2日、実質的な撮影期間は20日に限られたという。監督は男性で、少女たちから話を聞くために女性スタッフを同行させたが、むしろ監督に心を開いた。「少しずつしゃべっていくと、私を男というよりも1人の人間と思ってくれたようだ」と監督。ただし、彼女たちは父方のおじを意味する「アム」という言葉で監督を呼ぶことを拒否し、母方のおじを意味する「ダイ」と呼んだ。父方の親族に性的虐待を受けた少女がいたためだ。

「犯罪の背景にあるのは貧困。貧しくなると、文化的な生活とも縁が薄くなる。たくさんの国・地域でこの映画を上映したが、どこに行っても『同じ問題がここにもある』と言われた」と監督。「10代といえば誰かに恋したりするのは当たり前。だが、彼女たちは親に恋の話を聞いてもらうのではなく、チェーンで殴られるような生活をしていた。『あなたのような大人がそばにいて、10分だけでも話を聞いてくれれば犯罪に手を出さなかったのに』と少女に言われたのが印象的だった」という。

出所していく少女たちも映画の中で描かれるが、「彼女たちの本当の刑務所は内か外か。施設を出ていく少女たちに危険さえ感じた」と監督。「インディペンデントのドキュメンタリー映画にとっての利益は、人の心を動かすことだけ。彼女たちの声を映画で届けることで観客に刺激を与え、それが結果的に彼女たちの世界を変えることになることを望んでいる」と監督は話す。映画は東京・神保町の岩波ホールを皮切りに全国順次公開する。

(関原のり子)

保存
共有
印刷
その他

電子版トップ



[PR]