もう武器はいらない - 日本経済新聞
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もう武器はいらない

「ノーサイド」

ラグビー日本代表が、W杯の試合後に必ず行っていた儀式がある。リーチ・マイケル主将が相手のロッカールームを訪問。主将や奮闘した選手に模造刀を贈り、互いの健闘をたたえ合う。

布製のペナントの贈呈はよくあるが、刀となるとラグビー史上初かも。考案した代表スタッフが話す。「自国開催なのだから、刀という日本の文化も知ってもらいたかった」。独自の贈り物は喜ばれ、リーチと刀を受け取った選手の写真をSNS(交流サイト)に上げる国もあった。

儀式には別の意味もあった。同じスタッフが明かしてくれた。「戦いは終わった。もう武器はいらないというメッセージも込めていた」。試合が終われば敵味方なしという「ノーサイド」の精神具現化でもあった。

この言葉、日本以外では死語になっている。発祥国の英国でも1970年代ごろまでは使われていたが、今はほぼ消えた。W杯を機に、日本で生き残った言葉を世界に広げようという工夫は代表チーム以外にもなされている。

その筆頭が「チーム ノーサイド」と名付けられたボランティアの人たちだろう。駅で、道で、スタジアムに歩くファンをとびきりの笑顔とハイタッチで歓迎している。そのもてなしは、過去訪れたことのある3大会の中でも一番だと感じる。

大会を取り巻く優しさは、他国の選手にも伝染したように見える。毎試合の後、両軍の選手が入り乱れて1列に並び、客席に向かってお辞儀をする。今大会で生まれた新しい「ノーサイド」の風景である。

日本も準々決勝で敗れ、「武器」を置く側になった。ヘミングウェイの名作に「武器よさらば」がある。主人公の兵士が別れを告げる「arms(武器)」には、恋人の「腕」という意味も込められていた。世界一を争う戦いもあと1週間。全てのチームが「武器」を捨てる時が来ても、心を通わせた選手同士、ファン同士が取り合った腕は「さらば」となってほしくない。(谷口誠)

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