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脳が「現実」を作り出す 人の知覚は外部世界をそのまま反映したものではない

日経サイエンス

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2015年、あるドレスの写真がインターネットで話題になった。これを見た人々の意見は「ドレスの色は青と黒」と「白と金色」の真っ二つに分かれた。

人間の知覚が簡単にだまされることは誰もが知っている。様々な錯視がよい例で、2本の直線の長さが違って見えたのに測ってみると同じだったり、動くはずのない静止画の模様が動いて見えたりする。通常、こうした錯覚は知覚の神経回路が持つ癖が原因で、そのために本人が知覚しているものが実際にそこにあるものとずれてしまうと説明される。だが、人間が知覚している「現実」はそもそも外部世界を直接に反映してはいない。むしろ脳が作り上げたものだ。色が好例で、光(電磁波)自体に何かの色が備わっているのではない。色は様々な波長の光の混合から脳が作り上げたものだ。

認知科学の分野では近年、「脳は一種の予測装置であり、知覚は感覚信号の原因について脳が作り上げた予測の例である」と考えられるようになった。脳は感覚入力の原因について絶えず最良の推測とその更新を行うことによって、世界に何があるのかを知ろうと試みているというものだ。例えば少し離れたところに赤くて丸いものが見えたので、この感覚信号を生み出したのは「赤いボール」だと推測する。ボールであれば真ん丸で、ゴム製なら軟らかいだろう。ところが近づいて見ると完全な球ではなく、よい香りがし、触ってみると硬いので「赤いリンゴ」に予測を修正する、といった具合だ。

脳がこうした処理をする基礎になっているのは、以前に体験した知覚経験だ。上の例では「人工のボールは真ん丸である」「ゴムボールは軟らかい」「リンゴはよい香りがする」などの事柄を実体験から知っているので、予測モデルを作って修正していける。裏返すと、事前の知覚経験が異なっていると、脳が立てる予測が違ったものになり、人によって知覚内容も変わってくる可能性がある。英サセックス大学のアニル・セス教授らは事前の知覚経験が及ぼす影響や、通常の知覚と幻覚がどう違うのかなどを、仮想現実(VR)装置を使った実験で探っている。

なお冒頭のドレスの色が異なって見える現象に関しては、目覚めている時間の大部分を日光のある昼間に過ごす人には白と金に見えることが多く、主として人工光に照らされる夜型の人には青と黒に見えるとされている。

(詳細は現在発売中の日経サイエンス12月号に掲載)

日経サイエンス2019年12月号(大特集:真実と嘘と不確実性)

著者 :
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 1,466円 (税込み)

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