令和のスナックは若者の社交場 気取らず交流心地よく

スナックといえば昭和の香り漂う男性サラリーマンの根城というイメージが強いが、最近では性別を問わず、若い世代から再評価されているようだ。「ニュースナック」をうたう若者向けの店が出現した一方、昔ながらのスナックにも復調の兆しがある。令和の新スナック事情を探ってみた。
曜日で変わる「素人」運営者
「スナックは年配のお客さんが昔の曲をカラオケで歌う場所という感じだったが、この店は気取らずに通える印象がある」。木曜の夜、東京都世田谷区の松陰神社前にある「スナックニューショーイン」。カウンターに座っていた20代の女性は、店の魅力をそう話した。
スナックニューショーインの開業は5月。高齢者向け不動産物件サイトを運営するR65(東京・杉並)の山本遼代表が店を始めた。
昭和のスナックは帰宅前のサラリーマンが店の「ママ」に会いに行くという印象が強いが、山本さんが目指したのは客同士など、人と人が出会って交流する場所。「カフェは仕事をする人が増え、バーは格好つけすぎ。もっと緩い交流ができる空間をつくりたい」と考えていたという。
そんな時、借り手を探していたスナック物件を発見。クラウドファンディングで100万円以上を調達してオープンにこぎ着けた。
店は曜日ごとに異なる人が実際の運営にあたる。うどん研究家、臨床心理士など、普段は別の本業を持つ人が店に立つのが特徴で、店の雰囲気も変わる。
木曜は演劇ユニット「mizhen」の藤原佳奈さん、佐藤蕗子さん、佐藤幸子さんの3人が担当。営業中に自分たちの演劇を披露する時間がある。藤原さんは「カウンターごしという距離感や、窓のない小さな店内で生まれる密なコミュニケーションはスナックならでは」と話す。常連の50代男性は「個性豊かな人と出会え、古いスナックとは違う楽しみ方ができる」と話す。
東京・渋谷と銀座に店舗を構える「ハイパースナックサザナミ」も、客同士の交流を演出するスナックだ。オーナーの町田博雅さんは2006年から渋谷でDJバーを経営していたが、16年に店をスナックにリニューアルした。
店にはカラオケのほかWi-Fi装置があり、話題のYouTube動画を全員で見て楽しむこともある。渋谷、銀座ともに20~40代の昭和のスナックを知らない層が中心客だ。町田さんは「この店で友達や恋人を見つけた人も多い。人間関係が仕事に発展することもある」と話す。

町田さんはスナック再評価の機運を感じている。一例は若者向けの音楽フェスやクラブイベントに「スナック○○」と名付けたコーナーの出店が増えたこと。「スナックが時代遅れと思われていた数年前まではなかった光景で、それだけ浸透したと感じる」
昭和型も復活の兆し
この一方で昭和期から残る従来型のスナックにも復活の兆しが見えているようだ。検索サイト「スナックdeカラオケnavi」を運営する全国カラオケ事業者協会(東京・品川)の片岡史朗専務理事によれば、こちらの支持者は20~30代の女性。「経験豊富なママに人生相談をしたり、女性同士の話で盛り上がったりするのが楽しいようだ」。最近は「スナ女」という言葉も使われ始めている。
スナックdeカラオケnaviには、全地球測位システム(GPS)位置情報をもとに検索者の近隣のスナックを表示する機能がある。掲載店は初来店に限り3000円で飲み放題になる仕組みで、スナ女が代表するスナック初心者の不安を減らしてくれる。
片岡専務理事は従来型のスナックについて「一人で行ってもほっとくつろげ、温かみを感じられるのがスナックという空間。ママやお客さんが話し相手になってくれるし、カラオケをするにしても仲間内で歌うのとは違う楽しさがある」と魅力を説明する。
客同士のふれあい重視の新タイプのスナックも、ママが中心の従来型のスナックも、職場や家族など普段の人間関係を抜け出して楽しみ、ほっとできる点は共通している。カフェやバーに通っていてスナックは初めてという若者も、昭和のスナック全盛期を知る還暦世代の人も、足を運んでみてはいかがだろう。
(ライターかみゆ編集部・小沼 理)
[日本経済新聞夕刊2019年10月26日付]
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