現代自「後追い」脱却 3代目就任1年 開発投資5割増
外部連携にカジ

アジアBiz
2019/10/24 21:00
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【ソウル=細川幸太郎】韓国の現代自動車で、実質トップに就いて2年目を迎えた創業3代目の鄭義宣(チョン・ウィソン)首席副会長(49)が独自色を出している。環境対応車や自動運転の広がりで世界市場が変化するのに対応し、2019年の研究開発などの投資を前年に比べ5割増やした。開発力をつけ、競合のヒット車と似たクルマを安くつくって世界5位にのし上がった「後追い」戦略からの脱却をめざす。

「過去5~10年間は停滞期だった。今後は社員一人ひとりが創意工夫を発揮することが重要だ」。22日、鄭副会長はソウルの本社で開いた従業員交流会で約1200人の社員を前に呼びかけた。

従来経営の否定――。そう受け取る社員も多い。この期間は父の鄭夢九(チョン・モング)会長(81)が絶大な権力を振るっていた。グループの世界販売台数は15年の801万台をピークに18年は740万台まで低下した。世界5位の地位は守っているが、じりじりとシェアを落としてきた。

2000年代には夢九氏のリーダーシップの下、競合の売れ筋モデルをいち早く模倣し低価格で売る「ファストフォロワー戦略」で躍進した。その結果、現場発の創意工夫が乏しく、近年の自動車産業の構造転換に対応できていなかった。

労働組合は8年ぶりにストを見送った(韓国南部、蔚山市の旗艦工場)=現代自動車提供

労働組合は8年ぶりにストを見送った(韓国南部、蔚山市の旗艦工場)=現代自動車提供

鄭副会長は18年9月に実質トップに就く前から自前主義へカジを切ってきた。独フォルクスワーゲン出身のデザイナーを13年に新車開発の責任者に抜てきし、独自のデザイン重視を進めた。

24日発表した19年7~9月期決算は連結営業利益が前年同期比31%増の3790億ウォン(約350億円)で、売上高は10%増の26兆9690億ウォンだった。18年12月期まで6期連続で減益が続いていたが、デザイン重視で開発した多目的スポーツ車(SUV)「パリセード」や主力セダン「新型ソナタ」が好調なことが増益を引っ張った。

業績の底入れを踏まえて鄭氏が打った一手が、9月下旬に発表した米自動車部品大手アプティブ(旧デルファイ・オートモーティブ)との自動運転技術開発での協業だ。コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化を総称する「CASE」に対応するためには「外部技術を幅広く受け入れなければならない」(鄭氏)として過去最大の20億ドル(約2200億円)の出資を決めた。

19年の研究開発などの投資規模も18年に比べ47%増の8兆8000億ウォンに増やし、燃料電池車(FCV)や電気自動車(EV)の開発に力を注ぐ。鄭氏は「強力なリーダーに一糸乱れず従うのではなく、社員の創造的なアイデアを育む」と強調する。

労使関係にも変化が起きている。物言う株主、米投資会社エリオット・マネジメントが現代自株3%を取得して株主還元と成長投資を求めたことがきっかけだ。現代自の労組は毎年賃上げを強硬に要求し労使対立は常態化していたが、19年は8年ぶりにストを取りやめた。物言う株主の存在と自動車産業の地殻変動、さらに国内同業の苦境を目の当たりにして、雇用維持を説く鄭氏に歩み寄った。

足元の業績だけを見れば、創業家の代替わりを機に低迷期から脱しつつある。しかし15年前の快進撃を再現するのは簡単ではない。規模も収益力も同社を圧倒するトヨタ自動車ソフトバンクグループなど外部の有力企業と組んで自動車産業自体の変革に挑む。

現代自が自動運転などで世界の巨人と伍(ご)していける保障はどこにもない。再び世界市場で躍進するためには、鄭副会長が取り組むべき課題はまだ多い。

●義宣副会長、社員との対話を重視
 サムスン電子に次ぐ韓国第2位の財閥、現代グループは鄭義宣副会長の祖父、鄭周永(チョン・ジュヨン=故人)氏が一代で築き上げた。自動車を筆頭に造船世界首位の現代重工業、現代百貨店や現代建設など幅広い事業を抱えていたが、後継争いの末に各社が分離・独立した。
 鄭副会長は自動車事業を継いだ鄭夢九氏の長男。18年9月に首席副会長に就き、高齢の父に代わり実質的な経営トップになった。名門、高麗大学で経営学を学び、米大学院に留学した。その後伊藤忠商事ニューヨーク支社にも勤務した。現代自では購買や営業担当を経て、傘下の起亜自動車社長も経験した。
 韓国の財閥で一般的な強烈なリーダーシップで率いた父親の経営スタイルと異なり「物静かで社員の声を丁寧に聞く調整型」(業界関係者)だ。若手社員とも焼酎を酌み交わしカラオケではマイクを握る。SK証券の權純禹(コン・スンウ)アナリストは「社員や投資家の声に耳を傾ける。鄭副会長が前面に出て現代自は変わり始めた」と評価する。
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