韓国の日本製品不買運動 若者らSNSで持久戦
ソウル支局長 鈴木壮太郎

日韓対立
朝鮮半島ファイル
2019/10/24 23:00
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韓国で日本製品の不買運動が長引いている。これまでも日本との関係が悪化するたびに不買運動が起きたが、長続きせず不発に終わるのが常だった。異例ともいえる長期化の背景には、SNSを使って持久戦を展開する若者の存在がありそうだ。

韓国で打ち切られたユニクロのCM。韓国語の字幕で「まさか! 80年も前のことを覚えているとでも?」と書いてある

韓国で打ち切られたユニクロのCM。韓国語の字幕で「まさか! 80年も前のことを覚えているとでも?」と書いてある

ユニクロCMに抗議して韓国の大学生が公開した動画。実在する強制徴用被害者の女性が登場し、字幕には「ひどい苦痛は永遠に忘れられない!」とある。

ユニクロCMに抗議して韓国の大学生が公開した動画。実在する強制徴用被害者の女性が登場し、字幕には「ひどい苦痛は永遠に忘れられない!」とある。

不買運動の象徴的なターゲットとなったファーストリテイリングの「ユニクロ」が韓国でまた「炎上」した。問題視されたのは発売から25周年を迎えたフリースのグローバル広告だ。13歳の少女が98歳の女性に「私の年齢の時は、どんな格好をしていたの?」と尋ねると、女性が「昔のことは、忘れたわ」(I can't remember that far back)と答える内容だ。

■ユニクロ広告差し止め

韓国版では「まさか! 80年も前のことを覚えているとでも?」のハングル字幕が入った。80年前の1939年は日本の植民地時代だ。セリフにはない「80年」があえて記されたことで、日本に謝罪と賠償を求める元従軍慰安婦を皮肉る意味が込められているとの批判が浮上したのだ。ネットではユニクロのCMをもじり、韓国の大学生と強制徴用被害者の女性が登場して「ひどい苦痛は永遠に忘れられない!」と訴える動画が公開された。ユニクロの韓国法人は19日、広告を差し止めた。

韓国は秋も深まり、ソウルの店舗では「ヒートテック」やダウンジャケットなどを物色する人々の姿がみられ、客足は戻りつつある印象だった。CM騒動はそんなさなかに起きた。「慰安婦問題とからめるのはうがち過ぎだ」(20歳代の男子学生)と冷静な声もあるが、ネットでは「ユニクロが火に薪(まき)をくべた」と炎上を歓迎する書き込みが目立つ。

韓国では政治面で日本との関係が悪化すると、必ずといっていいほど不買運動が起きた。島根県が条例で「竹島の日」を定めた2005年はホンダのディーラーが放火されるなどの被害が発生したが、結局は尻すぼみに終わった。2013年も竹島の日に反対する不買運動が計画されたが、これも不発に終わった。

ソウルの日本大使館裏で開かれた反日集会。規模は限定的だが、ネットでは不買運動の呼びかけが拡散していた(8月3日)

ソウルの日本大使館裏で開かれた反日集会。規模は限定的だが、ネットでは不買運動の呼びかけが拡散していた(8月3日)

■目に見える「面白さ」

ではなぜ今回、不買運動は大きくなり、長期化しているのか。韓国のデジタルマーケティング会社、エムフォースがポータルサイトの検索語やSNSのデータを使って分析したリポートが興味深い。今回の不買運動は組織化されていない20~30代の若年層が主導し、その動機は当初の「日本への怒り」から、不買運動の効果が目に見える「面白さ」に変化しているというのだ。

不買運動は7月1日、日本が韓国への輸出管理の強化を発表したことをきっかけに始まった。リポートが注目するのはSNSで発信されることばの変遷だ。当初は「腹立たしい」「愛国心」「反日」など、感情的な単語が多かった。それが次第に「面白い」「理性的に」「売り上げ減少」などのことばが増えているという。

「ユニクロ店舗を出入りする客の常時監視」「ウェブサイトでの代替製品の紹介」――。不買運動の具体的な方法はSNSで共有され、瞬時に拡散した。その結果、韓国の消費者に日本製品を購入することへの後ろめたさが強まった。ユニクロの店舗は閑古鳥が鳴き、スーパーの店頭から日本のビールが消えた。多くの人々が日本旅行を取りやめた。

「不買運動の効果を実感した若者がゲームのような面白さを感じはじめ、長期戦に入った」と分析する。

ソウルにある日本のラーメン店の貼り紙。「100%韓国人資本の店です。不買運動に賛同し日本製品は売りません」と書かれている=一部画像処理しています

ソウルにある日本のラーメン店の貼り紙。「100%韓国人資本の店です。不買運動に賛同し日本製品は売りません」と書かれている=一部画像処理しています

過去の不買運動では使われなかった表現も登場した。「薪」ということばだ。SNSでの「不買運動」という単語の登場頻度は7月下旬をピークに下落基調にある。世間の関心も次第に薄まり、そのままなら不買運動も下火になる。その火勢を再び強めるのが薪だ。韓国人の国民感情を刺激する日本の有名人の発言や企業の失敗をこまめに拾ってはSNSで拡散する。ユニクロのCM騒動は格好の薪となった。

■高まるデジタル世論

2013年の不買運動が広がらなかったのは自営業者や市民団体などの組織が主導したためだと同社は分析する。活動は街頭集会が中心で参加者の年齢層が高く、若者の関心は低かったという。今回は当時よりもさらにSNSの役割が増し、デジタルネーティブ世代の世論形成力が高まったといえる。

そんなSNSで最近、登場頻度が増えていることばは「日常化」「生活化」「習慣」などだという。そこから読み取れるのは日本製品の不買を運動ではなく、生活習慣にしようとの意図だ。同社は「不買運動が次第に弱まるのは確かだろうが、回復には少なくない時間がかかる」と予測する。

この予測が的中するかはわからない。消費の現場では明るい声も交じり始めた。「8月は厳しかったけど、いまは韓国人のお客さんでいっぱいですよ」。ソウル中心部にある居酒屋のオーナーは安堵する。「人目を気にせず、早く日本旅行に行きたい」。こう打ち明ける韓国人も多い。心配は杞憂(きゆう)に終わるかもしれない。ただ、不買運動の火を絶やすまいと、せっせと薪拾いをしている人々がいることも覚えていた方がいい。

鈴木壮太郎(すずき・そうたろう)
1993年日本経済新聞社入社。産業記者として機械、自動車、鉄鋼、情報技術(IT)などの分野を担当。2005年から4年間、ソウルに駐在し韓国経済と産業界を取材した。国際アジア部次長を経て、2018年からソウル支局長
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