山田風太郎賞に月村了衛 詐欺にはまる人描く

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2019/10/29 2:00
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今月18日、優れたエンタメ小説を顕彰する山田風太郎賞が発表され第10回目の受賞作に月村了衛「欺す衆生」(新潮社)が選ばれた。家族を養うため、善良そうに見える男性が詐欺に手を染め、深みにはまっていく犯罪小説だ。

第10回山田風太郎賞を受賞した月村了衛

第10回山田風太郎賞を受賞した月村了衛

物語の背景にあるのは、バブル期前夜から世間を騒がせてきた詐欺の数々。戦後最大級の詐欺事件を起こした「豊田商事」思わせる「横田商事」の元社員が主人公だ。事件後は足を洗おうとしながらも原野商法、和牛商法と悪質な詐欺を繰り返し人を欺す才に目覚めていく。会見で月村は「劇場型犯罪として豊田商事は外せない題材。だが事件自体より、事件に運命的に巻き込まれた人間がその後どういう人生を歩んでいくかに興味が移り、(そちらを描くほうが)人間の本質に迫れると思った」と話す。

2010年に作家デビューした月村は同年、第1回受賞作が発表された同賞の存在を知り「自分のために作ってくれたに違いない」と縁を感じたという。山田風太郎については学生時に会い、「敬愛する作家」と公言する。「唯一無二の天才のまねはできないが、文体も語彙も影響を濃厚に受けている」と力を込めて語った。

選考委員の夢枕獏は「主人公が詐欺に喜びを覚え、最後は家族に欺されていた……僅差ながら一番優れていたのでは」と受賞作を高く評価した。他の候補作は今村翔吾「童の神」、小野不由美「営繕かるかや怪異譚 その弐」、川越宗一「熱源」、葉真中顕「Blue」。

夢枕は近年立て続けに直木賞を受賞した佐藤正午や真藤順丈の名をあげて「エンタメ小説に与える賞としてきちんと役目を果たしてきたのでは」と同賞の歴史を振り返る。選考委員は今期で京極夏彦が退任、来期から恩田陸と貴志祐介が加わり6人体制となる。

(村上由樹)

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