強権で進む中国の自動運転(The Economist)

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2019/10/21 23:00
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北京の栄華南路周辺を走る自動運転車は、米国のそれと変わらない。セダンの屋根には多くのセンサーが固定され、トランクにはスーパーコンピューターを搭載している。中国政府は、各都市で自動運転の試運転地域を次々と指定しており、この一帯もその一つで「北京Eタウン」と名付けられている。道路の車線の表示はデジタルで、必要に応じて一部を自動運転車専用に切り替えられる。走っている車には百度(バイドゥ)、小馬智行(ポニー・エーアイ)、文遠知行(ウィーライド・エーアイ)など中国を代表する自動運転車メーカーのステッカーが貼られている。

中国は国を挙げて自動運転に力を入れているため、その普及は欧米より早いとの見方が出ている。写真は、中国のポニー・エーアイの自動運転車=ロイター

中国は国を挙げて自動運転に力を入れているため、その普及は欧米より早いとの見方が出ている。写真は、中国のポニー・エーアイの自動運転車=ロイター

欧米の自動車各社は今頃は世界は自動運転車であふれ、道は安全になり渋滞も減っていると言っていたが、そうなっていない。これは自動運転の実現がいかに難しいかの表れだが、最近は自動運転の普及は欧米より中国の方が早いとの見方が強まっている。

技術は欧米の方が格段に進んでいるかに思えるため、この見方は意外かもしれない。だが、中国のある自動運転車メーカーの幹部は「中国のどの企業も(米アルファベット傘下の)ウェイモと(米GM傘下の)クルーズに後れを取っている」と認める。ウェイモの自動運転車の走行距離は、中国の全自動運転車の走行距離の合計を上回る。2016年にGMが約10億ドル(約1080億円)で買収したクルーズが、その後調達した資金総額は約62億ドル。米調査会社CBインサイツの推計では14年以降、米自動運転車メーカーへの投資総額は約110億ドルに上るが、中国の自動運転車メーカーへの投資総額は約44億ドルにすぎない。

■インフラから法整備まで矢継ぎ早に進む

とはいえ、交通量の多い道に対応できる自動運転のソフトウエアがまだ存在しない中、中国は異なる戦略をとり始めた。ソフトが対応できるよう道路に自動運転車を誘導するセンサーの設置、人の移動を制限する法律の制定・施行、自動運転車の走行を容易にする都市の設計(または再開発)、さらには事故が起きた場合の自動運転車メーカーの法的責任を限定するといった手まで打っている。いずれも訴訟がすぐ起きる欧米の民主主義社会では実現が難しいが、一党独裁体制の中国だからこそできることだ。

自動運転の実現・普及には自動運転車メーカー以外の企業の協力も必要だ。中国移動(チャイナ・モバイル)などの通信会社や華為技術(ファーウェイ)などの通信機器各社は、自動運転の手助けとなりそうな技術を自社のシステムに組み込もうとしている。ファーウェイは自動運転の走行に不可欠なデータ処理に必要となる「5G」のアンテナを供給し、利益を上げようとしている。関連分野の企業が利益を上げることで自動運転車メーカーの利益が減っても、市場自体が急拡大するから問題ないはずだ。

中国の自動車メーカーにハイテク部品を供給する自動車部品大手の独ボッシュのフォン・ハオ氏は、自動運転車1台当たりでみたインフラ整備の費用を抑えられれば、自動運転車が普及するスピードは上がるだろうと指摘する。

中国の工業情報化部(日本の省に相当)の苗●(つちへんに于)部長は最近、コネクテッドカー(つながる車)の市場規模は来年までに1000億元に達すると予想されていると語った。人口14億人の中国の潜在需要は大きく、米コンサル会社マッキンゼー・アンド・カンパニーも、中国の自動運転車市場は40年までに約2兆ドルに達するという。

■自動運転でも一気に技術革新進むリープフロッグ

完全な自動運転時代の到来前に、中国企業は自動運転で大きな利益を上げるかもしれない。ベンチャーキャピタル(VC)のチャイナ・クリエーション・ベンチャーズを率いるウェイ・ジュー氏は、中国の自動運転も新興国が一気に技術革新を進める「リープフロッグ」現象をみせていると話す。同社の投資先のコーワ・ロボットは、道路を掃除する自動ロボットを湖南省の省都、長沙市に販売した。人工知能(AI)向け半導体を手掛け、評価額が既に約30億ドルに達する地平線機器人(ホライズン・ロボティクス)は、コーワなどに、その企業に合わせた自動運転用コンピューターを開発、提供しているといった具合だ。

中国企業は比較的単純作業を自動化して利益を上げることで、完全自動運転に向けた開発を前進させられるが、米国はそうはいかない。米国で道路を掃除するロボットを自治体に提供したいと考えても、ほとんどの自治体は既に複数の道路清掃企業と契約しているため、そこに入り込むのは容易でない。中国企業は外国企業との競争からも守られている。海外の企業が中国で自動運転事業を立ち上げるには、合弁を余儀なくされるうえ、出資比率は50%未満とされているからだ。

さらに中国で自動運転を手がける企業には、中国政府による全面支援という強みもある。自動運転の成功を望む中国政府は、独裁国家ならではの権力を行使し、インフラ整備から新技術の推進、必要なら政策の変更もいとわない。中国国営メディアによると、政府は25年までに5Gに約2200億ドルを投じ、20年代には自動運転車に必要なインフラ整備を進める計画だ。これには車や周囲の環境からデータを取り込む通信ネットワークの整備や、これらのデータを処理し車にどう進めばいいか、その誘導を可能にするクラウドコンピューティングの推進などが含まれる。

だが、中国の自動運転の産業がすべて順調なわけではない。他の中国ハイテク産業と同様、米中貿易戦争に直面している。米政府は5月、ファーウェイ製品を使うと中国政府による盗聴の恐れがあるとして、米企業の同社への輸出を禁じた。10月7日には安全保障上、懸念のある外国企業のリストに中国企業8社を追加した。その中には機械で物を認識するコンピュータービジョンなど自動運転に有用な技術を開発している企業も含まれている。

■だが自動運転開発にも米中摩擦の影

米国の技術を使えなくなるというのは中国自動運転車メーカーには大きな懸念だ。中国自動車産業は、最新の車の動力源である電子機器では海外のサプライヤーへの依存度が高い。中国の集積回路の輸入総額は昨年、約3120億ドルと、自動車部品輸入額の約10倍に上った。中国の自動運転の今後に期待して、中国の起業家らは有望なスタートアップを次々立ち上げているがその多くは、米国の法律に順守する必要のあるシリコンバレーが拠点だ。中国における最先端技術の開発スピードは米国ほど速くない。

また、中国企業も欧米企業と同じ悩みを抱える。ポニー・エーアイ、ウィーライド・エーアイなどは欧米企業同様赤字が続いており、近い将来に黒字転換する可能性は低い。車を運転する人たちが自分の自動運転車を欲しがるかもまだ分からない。車による送迎サービス事業の収益は、人件費が高い運転手が将来必要なくなるというのが前提だが、それは疑わしい。上場以来、時価総額が3分の1消えた米ウーバーテクノロジーズなどの赤字企業に投資家はいら立ちを募らせている。労働力がまだ比較的安い中国では、自動運転ソフトが競争力を持つまでには時間がかかるかもしれない。

中国の自動運転技術の進め方は、広い定義での同国の開発への姿勢を示している。政府の役割が大きく、インフラ整備には力を入れるが、最先端技術の開発や市民の自由といった問題は後回しになりがちだ。それでも中国は自動運転という点では西側よりはるかに普及するかもしれない。ただ、だからといって中国の自動運転を手がける各社が利益を出せるようになるかは別問題だ。 (c)2019 The Economist Newspaper Limited. October 12, 2019 All rights reserved.

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