矢上恵子にささぐ 身体が訴えるドラマ(バレエ評)
追悼コンサート

関西タイムライン
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2019/10/18 7:00
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矢上の代表作『Chminer』で愛弟子の山本隆之らが躍動した。=文元 克香(テス大阪)撮影

矢上の代表作『Chminer』で愛弟子の山本隆之らが躍動した。=文元 克香(テス大阪)撮影

山本隆之(紫綬褒章受章者)、福岡雄大(芸術選奨新人賞受賞)ら新国立劇場バレエ団プリンシパル=日本を代表する舞踊家を育てた指導者であり、国際コンクールでの振付賞受賞者、そして舞踊家、矢上恵子(今年3月30日に他界)の追悼コンサート。

彼女の代表作のひとつ『Chminer―シュミネ』が圧巻だった。2006年の初演で矢上自身が踊ったセンター・パートは山本。福岡、福田圭吾・紘也、黒瀬美紀、石川真理子、吉田千智ら愛弟子(まなでし)が周囲を固めた。

スピーディーな動きは、とにかくスタイリッシュ。柔らかい流れは一瞬にして硬質になり、動きの予想はつかない。無秩序にも思えた音楽は、やがてラベルの「ボレロ」へと移る。ストーリーを追うダンスではないが、ダンサーの動きは、それぞれ見るものにドラマを喚起させる。

山本の傾(かし)げた首や宙をつかむ腕が訴えるのは、孤独や恐れか。その「何か」を強く訴えかける。だがダンサー自身にはその意識はないだろう。矢上の振付は、ダンサーをとことん踊らせ、その結果、身体からドラマが浮かび上がる。ラストは、迷いから解き放たれたような山本が椅子を踏み越え、先へと進む。振り返った表情は安堵にも、強い意志にも見えた。

『Home』は彼女の甥(おい)であり、新国立劇場バレエ所属の福田圭吾が今年5月に横浜で発表。ちゃぶ台で一家揃(そろ)って食事をする「サザエさん」を彷彿(ほうふつ)させる登場人物。彼らが描く何気ない日常が面白い。キャラクターになりきった本島美和&福岡の夫婦のデュオ、小柴富久修扮(ふん)する猫。そして圭吾の弟紘也制作の映像。どの場面も引き込まれ、時に笑いが起こった。振付力とともに構成力も確か。恵子の才能は愛弟子たちに確かに受け継がれている。9月29日、豊中市立文化芸術センター。

(舞踊評論家 桜井 多佳子)

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