井山王座vs.芝野名人 囲碁王座戦五番勝負が25日開幕
第一人者に19歳の気鋭が挑む 棋界の行方占うシリーズ

囲碁・将棋
2019/10/18 2:00
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井山裕太王座(30、棋聖・本因坊・天元)に芝野虎丸名人(19)が挑戦する第67期囲碁王座戦(日本経済新聞社主催)五番勝負が25日開幕する。国内四冠を持つ井山王座は、王座7期目と5連覇による名誉王座の資格獲得を目指す。芝野名人は史上初めて10代で七大タイトルを獲得し、勢いに乗っている。対戦成績は井山王座の0勝1敗。圧倒的な実績の第一人者に期待の新鋭が挑む五番勝負は、棋界の行方がかかる注目のシリーズとなる。

■井山裕太王座、「名誉王座」狙う 大変な戦いに粘り強く

いやま・ゆうた 1989年5月生まれ。大阪府東大阪市出身。石井邦生九段門下。2002年入段。05年早碁オープン戦で史上最年少優勝。16年、囲碁界初の七冠独占を達成。17年に2度目の七冠。18年、国民栄誉賞を受賞。第60、61、63~66期王座。タイトル獲得数は56。現在は四冠。

いやま・ゆうた 1989年5月生まれ。大阪府東大阪市出身。石井邦生九段門下。2002年入段。05年早碁オープン戦で史上最年少優勝。16年、囲碁界初の七冠独占を達成。17年に2度目の七冠。18年、国民栄誉賞を受賞。第60、61、63~66期王座。タイトル獲得数は56。現在は四冠。

前回の王座戦は、失冠が続くなかで天元戦と並行して始まり、厳しい番勝負だったので防衛できてホッとした。その後、ちょっとずつ感覚が良くなっているが、正直、思うような結果とは言えない。

AIでの研究が広まって、序盤で優位に立つのは難しくなった。私も約1年前に本格的に導入し、自分の感覚とAIの評価値を照らし合わせるようになった。最近は序盤戦術がプラン通りいくことが増えてきたが、AIの判断には揺れもあり、信用しすぎるのも問題がありそうだ。

芝野さんは以前から研究会などで対局し、注目していた。碁に向かう姿勢がすばらしく、ほかのことをしている姿を想像できない。公式戦の手合い後もネット対局していて、「寝ても覚めても」というイメージがある。

棋風はオールラウンダーだが、もちろんすべての面でレベルが高く、自分の世界観を持っているように感じる。目の付け所が面白く、他人がなかなか気付かない手を打つ。形勢が悪くても、気持ちを含めて立て直せる強さがある。

大変な戦いになるが、粘り強く打つのは自分もそれなりに自信を持っている。9月はまるまる対局がなく、久々にリフレッシュできた。私生活でも結婚し、新たな気持ちで番勝負に臨みたい。

■芝野虎丸名人、10代初七大タイトル 簡単に諦めずしっかり

しばの・とらまる 1999年11月生まれ。神奈川県出身。洪清泉四段の洪道場に学ぶ。2014年入段。17年竜星戦優勝、新人王戦優勝。18年、日中竜星戦で世界最強だった中国・柯潔九段を破って優勝。19年、名人獲得は七大タイトル最年少記録、九段。タイトル獲得数は3。

しばの・とらまる 1999年11月生まれ。神奈川県出身。洪清泉四段の洪道場に学ぶ。2014年入段。17年竜星戦優勝、新人王戦優勝。18年、日中竜星戦で世界最強だった中国・柯潔九段を破って優勝。19年、名人獲得は七大タイトル最年少記録、九段。タイトル獲得数は3。

トーナメントは大変な碁の連続で、結城先生との本戦1回戦では大石が頓死してはっきり苦しかった。投了時点でも形勢が良かったかどうか。運が良かったし、粘り強く打てたのも良かった。

挑戦者決定戦は2年前(第65期)に初進出した。当時は実力不足で、「次に頑張るか」ぐらいの気持ちだった。今回は、もし負けたら残念だったと思う。挑戦手合いは一番強い先生と番碁で何局も打てるのが楽しみだ。

子供の頃からタイトル戦で見てきた井山先生と戦えるとは思ってもいなかった。入段当初、研究会でボコボコにされたのを覚えている。布石感覚と中盤にかけての構想がすごく、弱点は見当たらない。

今年、公式戦で初対戦し、序盤は自分なりにうまく打てた。中盤で錯覚があってダメにしたけど最後は勝てて自信になった。五番勝負でも、もし形勢が悪くなっても、簡単に諦めないでしっかり打とうと思っている。

ふだんの研究はネットでの練習対局がほとんど。AIは仲間のパソコンを借りる程度で、あまり使わない。単純にソフトの入れ方が分からなかったのだが、最新の打ち方はトップ棋士の碁を見れば分かる。五番勝負では今の最大の力を出し切り、ファンに楽しんでもらえる碁を打ちたい。

■展望を聞く 井山、積極的に仕掛ける 芝野、スキの無い計算

五番勝負の展望を囲碁ナショナルチーム監督の高尾紳路九段(42)と村川大介十段(28)に聞いた。

――芝野が挑戦者に名乗りを上げた。

高尾紳路九段

高尾紳路九段

高尾 最近ほとんど勝っている印象で、今、一番勢いのある棋士だ。強くなるとは思っていたが、想像以上の急成長ぶりだ。七冠同時制覇を成し遂げた井山との五番勝負は、時代の分かれ目となる可能性もある。

――芝野の碁はどんなところが強いのか。

村川 基本的には戦いの碁で、形勢の良しあしに関係なく最強手を繰り出すのは井山と似ている。悪くなっても粘り強く打って逆転のチャンスをうかがい、挑戦者決定戦では、はっきり負けの碁をひっくり返した。ひ弱に見えるが碁を打つ体力はあって、名人戦の対局の後にネット碁を打っていたという話もある。

高尾 序盤の研究は怠りなく中盤は力強い。計算もしっかりしていてスキが無く、弱点が見当たらない。特に戦いの時に少し怖そうな手でもちゅうちょなく選択し、踏み込んでくる。よほど読みに自信があるのだろう。

村川大介十段

村川大介十段

村川 AIの信奉者が多い若手の中では、AIの影響をあまり受けていない。AI流の布石がはやる中、人まねをせず自由に打っている。

――一方の井山の調子をどう見るか。

高尾 昨年秋、名人位を取られたのは過密日程による一時的な疲れだったと思う。直後の王座、天元はさすがの打ち回しで防衛した。ただ、今年に入り、安定感を欠いている。取られたのは十段だけだが、棋聖、本因坊も内容はいまひとつ。世界戦でもギリギリの場面で井山らしからぬ手を打って負けていた。金属疲労のようなものが出てきたのかもしれない。

村川 地力が違うので心配はしていないが、芝野との唯一の対局である2月の名人リーグは嫌な負け方だった。中盤まで優勢の碁を手堅く勝とうとして逆転負け。やり過ぎてひっくり返されるのに比べて気持ち悪い。

――どんな勝負になりそうか。

高尾 ともに決まった布石を打つタイプではなく、すぐに前例のない碁になるだろう。戦いもいとわないので、「ゆっくり打ってヨセ勝負」には、まずならない。

村川 戦いの碁といっても、積極的に仕掛けるタイプの井山に対し、芝野は「最強の受け」を得意とする。AIの影響によるものか、芝野は早めに地を稼ぐのが好きになってきたそうで、井山の攻め、芝野のシノギという構図かもしれない。

――勝敗予想は。

高尾 芝野は「優勢な碁は簡明に、劣勢な碁は複雑に」といった打ち方ができる。局面を複雑化して相手に間違えさせる技術もある。しかも残り1分の秒読みでも間違えない。持ち時間3時間なので終盤には両者秒読みになるだろうが、井山は最近、秒読みの精度が落ちている。3勝2敗で芝野の奪取と予想する。

村川 井山は9月以降に1カ月以上も真剣勝負の場から離れていたが、王座戦の前に天元戦が2局あり、実戦感覚はすぐに取り戻すだろう。番勝負で同じ相手と対局すると、相手の特徴や手の内を知り、そこを突くのもうまい。簡単に勝てる相手ではないが、経験の差により3勝2敗で防衛とみる。

◇ ◇ ◇

■若手が勝ち上がり

挑戦者争いは3期連続挑戦を目指す一力が軸になるとみられた。過去、趙治勲名誉名人(47~49期)、山下敬吾九段(52~54期)はともに3回目で王座奪取。一力には初の七大タイトル獲得が期待されたが、2回戦で読みに精彩を欠き、実力者河野に敗れた。

ベスト4にはその河野と実績豊富な高尾、ホープの許、芝野が残った。準決勝はそれぞれ世代間対決となり、若手が勝ち上がった。名人戦挑戦中だった芝野と、天元戦挑戦を決めていた許の決勝。「優勢になり、決めにいったらカウンターをもらった」と許が振り返るように、芝野が粘りで挑戦権をもぎ取った。

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