今日も走ろう(鏑木毅)

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色あせぬ戦友との友情 10年後の大会、共にゴール

2019/10/17 3:00
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先月からのラグビーワールドカップ(W杯)の熱戦に夢中になっている。スクラムの力強さ、パス回しの華麗さ、そして各国・地域チーム選手の勝負にかけるエネルギー。これまであまりラグビーを見る機会がなかったが、一戦一戦を観戦するにつれ次第にのめり込んでいる。

特に注目しているのはゲームが終わってノーサイドとなった瞬間から、選手同士が互いにたたえ合うシーンだ。それまで闘争心むき出しだった選手たちが握手をしたり抱き合ったりする姿に胸を打たれる。ラグビーは数ある国際的な競技の中で相手を敬うという文化が最も根付いたスポーツなのかもしれない。

今年の夏に私は7年ぶりに世界最高峰のトレイルランニングレースのUTMB(170キロメートル、累積標高1万メートル)に出場した。昼夜を問わず危険なアルプスの高山地帯を走る大会では、レース中に体調を崩す選手が少なくない。ひどい場合には低体温症などの事故につながってしまう。このため選手は互いに「大丈夫か」と声を掛け合い、限界に挑む仲間という共同体意識が以前はあった。

しかし今回、久々に出場すると意外な光景を目にした。レース中に何人もトレイル脇でうずくまっているのに、多くの選手がその横を無言で通り過ぎるのだ。

確かにこの大会での順位はそのまま世界ランキングとして評価される。レース成績はのちのちのスポンサー獲得やプロランナーへの可能性にも影響し、やむを得ないことかもしれない。だがこの大会ならではの良さがなくなってしまったようで一抹の寂しさを感じた。

10年前優勝を争ったフランスの選手とゴールを共に=藤巻 翔撮影

10年前優勝を争ったフランスの選手とゴールを共に=藤巻 翔撮影

10年前のこの大会、私はレース序盤の真夜中の峠越えのセクションで道に迷ってしまった。霧が立ち込めルートが分からずにさまよっていると、「ルートはこっちだよ」と叫ぶ声があった。その声に助けられて、事なきを得た。フランス人だったその声の主に礼を言い、互いに名乗り合い「いいレースになればいいね」と励まし合った。

夜が明け、昼を過ぎ、レースの最終盤に最後まで私と2位争いを繰り広げたのがその彼だった。極限の疲労の中で互いのプライドをかけて闘った数時間は今でも忘れられない思い出だ。結局、彼に後れをとり3位でゴール。待っていてくれた彼としっかりと握手をかわした。何も言葉は必要なかった。

あれから10年。この夏のUTMB、最後の山の下りの暗闇で誰かが私を呼んだ。何とあの彼だった。久しぶりに出場した私とレースの最後を一緒に走りたくて何時間も暗い山中で待っていてくれたのだった。お互い年齢的にも全盛期は過ぎたが、気持ちはずっと一緒だったのかと思い、胸が熱くなった。

スポーツが競技化するあまり、戦った相手への敬意が失われつつあるように感じる。同じスポーツを愛する者同士、決して敵ではないだろうに。競技での勝った負けたを超える形で人間的成長があることもスポーツの存在価値なのかもしれないと感じた今夏のできごとだった。

(プロトレイルランナー)

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