貫いた攻めの姿勢、準備の勝利(廣瀬俊朗)
大一番でも自分たちができることに集中し、鍛え上げた運動量をベースにいつも通りの準備をする。新たな歴史をつくったスコットランド戦の勝因を問われれば、それ以外に考えられない。アイルランドに続く連破で、「ティア1」と呼ばれる強豪グループの下位層とは互角に戦える実力を備えていることを示した。

序盤は反則もあったが、それ以上に攻める姿勢が貫かれていた。象徴的だったのがキックオフ。SO田村は安全策で敵陣深くに蹴るのではなく浅い位置へのゴロキックを選択した。ボールの再獲得を狙いにいった積極的なプレー。ぶれずに攻めるというチームの意志を表しているようだった。
1次リーグ敗退は許されないスコットランドもボールの争奪局面が生命線と踏んでプレッシャーをかけてきた。特にフランカーのリッチーを筆頭に密集でのしつこい絡みはさすが。それでも前半のボール支配率は70%を超えていた。ひるまず細かいパスをつなぐことで的を絞らせなかった。
キックを蹴ればカウンターを食らう危険性があるが、保持することで相手の動きを鈍らせることに成功。前半の日本代表のトライは周りの選手が"ジャブ"を打ち続けるように前進したたまもの。その効果で逆に裏にスペースができ、CTBラファエレのゴロのキックに反応したWTB福岡のトライも生まれた。バリエーションが増えたことで優位にボールを運べた前半は完璧な内容だった。
タックルを受けながらつなぐ「オフロードパス」も4年前にはなかった進化。出し手が接点で勝ち、受け手も適切なポジションにいないと成立しない状況で3つも連ねた。最後に決めたのがプロップの稲垣というのがうれしかった。あえて笑顔を見せないのが彼らしくて、ほほ笑ましかったです。
防御ではSHレイドローのキックが肝だと感じていたが、FW陣やSH流がボールを追う相手をブロックし、対応できていた。ただ、SOラッセルのキックで外側へワイドに振られたときには課題が残った。日本は防御ラインを上げている分、裏のスペースで孤立しやすい。周りの選手がカバーできるかが大切になる。
攻め込まれた後半はFWに疲れの色が見えたことに加え、点差が開いて少し安堵があったのか、2トライを取られた。嫌な展開だったが、自陣での反則が少なく、誰かが抜かれても誰かがカバーしていた。最後まで耐えてしっかり勝ちきったことに価値がある。台風で被害に遭われた方々のため、試合実施に尽力してくれた人たちのため、という思いも大きな力を生み出したはずだ。
準々決勝の南アフリカは担ぎ上げるような厳しいタックルをしてくる。W杯直前の対戦では敗れているが、FW戦で簡単に負けることはないだろう。攻撃に転じたときはどんどんボールを動かして相手を疲れさせたい。
4年前よりさらにステップアップした姿、ラグビーの素晴らしさを直接日本のファンに伝えられるまたとない機会だ。8強入りという目標を達成したここからはラグビーを楽しんで、勇気を持ってチャレンジしてほしい。(元日本代表主将)