瀬戸内の多島美、現代アートが「つなげる」
SETOUCHI2.0 海と共に歩む(2)

2019/10/16 5:00
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現代アートを生かし、島と世界とのつながりを生むプロジェクトが瀬戸内海で進行している。代表格が現代アートの祭典、瀬戸内国際芸術祭(瀬戸芸)2019だ。いつしか海が分断の壁となって人の行き来が減ったとの反省のもと、アートを活用して交流の海を取り戻す。写真家は「世界の宝石」とも言われる多島美を世界に発信する。

瀬戸内国際芸術祭2019に参加する大小島真木さんは、海の生命循環の象徴としてクジラを制作した(9月26日、粟島)

瀬戸内国際芸術祭2019に参加する大小島真木さんは、海の生命循環の象徴としてクジラを制作した(9月26日、粟島)

瀬戸大橋の西側に位置する粟島(香川県三豊市)に、若手アーティストの創作拠点「粟島芸術家村」がある。建物内に足を踏み入れると、巨大なクジラの造形物が存在感を放っていた。

現代アーティストの大小島真木さん(32)は島民と一緒に革の端切れを縫い合わせて、海の生命循環の象徴としてクジラを制作した。「海は生命が溶け合うスープ」と独特の表現で制作の意図を語る。島でこの作品を鑑賞すると、瀬戸内海の価値を再認識させられる。

大小島さんがインドのワルリー族の男性と一緒に手掛けた作品もあった。室内を洞窟に見立てて、壁には狩猟や農耕などをテーマに人類史を描いた。中央にはクジラの骨を連想させる造形物がある。大地と海の交わりを意識する時、島は瀬戸内海を通じて世界とつながっている感覚を抱く。

瀬戸芸は「海の復権」をテーマに掲げる。高速道路や新幹線といった陸上交通が発展していくなか、瀬戸内海への関心が薄れていった。この反省から、交流の海を取り戻すことに力を注ぐ。

「網は人を寄せる」。アーティストの五十嵐靖晃さん(41)が島の漁師から聞いた言葉だ。網を編んでいると、話すともなく人が集まり編み始めるという文化が島には残る。瀬戸内の14島の住民と一緒に制作した本島(香川県丸亀市)にある「そらあみ〈島巡り〉」は、人と人のつながりを取り戻す願いを込めた。

春から始まった瀬戸芸の来場者数は、秋会期の序盤(開幕から9日間)までで80万人を超え、前回16年の同期間の比較で4%増えた。全体を通して今回も100万人を超す勢いであり、瀬戸内海は輝きを取り戻しつつある。

離島でのアートによる地域振興は広がりをみせている。広島県との県境にある愛媛県上島町は、防波堤をキャンバスとしたアート事業を今秋から始める。11月に若手アーティストを招き、高さ約1メートル、幅が約10メートルで絵を描いてもらう。SNS(交流サイト)による情報発信を通じて、島と世界との距離を縮める。

写真家も瀬戸内海に関心を寄せる。ここでしか撮れない1枚を求めて各地を巡る。

写真家の青地大輔さんが撮影した島越しに見る花火

写真家の青地大輔さんが撮影した島越しに見る花火

岡山県を拠点に活動する青地大輔さん(46)の写真集「瀬戸内の光」の出版を記念した写真展が岡山市内で開かれた。10月上旬に訪れると、岡山側から撮影した高松市の花火大会の写真が飾られていた。島越しに花火を見るという、瀬戸内ならではの写真だ。

青地さんはこの地を舞台に写真家として約20年間、歩んできた。地元の人も知らない風景があるからこそ、光による景色の変化を追って、島に泊まり込むことも珍しくない。

瀬戸内を巡る中で、気づいたことがある。展望台が管理されておらず、荒れた光景を何度か目にした。青地さんは「観光客が押し寄せると危険なので、きちんと整備した上で情報公開すれば、人が集まる」と指摘する。

地元の人がこのことに気づくには、瀬戸内の価値を再認識する必要がある。青地さんは写真を通じて、「瀬戸内海、面白いでしょ」と内にも外にも問いかけている。

水陸で交通連携進む

瀬戸内海を交流の海として輝きを取り戻していくには、海上交通の使い勝手を高めることが不可欠だ。その上でのキーワードが次世代交通サービス「MaaS(マース)」だ。

ソフトウエア開発のスキームヴァージ(東京・文京)は、瀬戸内海で「海のMaaS」の構築を目指す。スマートフォン向け交通アプリ「Horai」は、鑑賞したいアート作品や日時などを入力するとフェリーや海上タクシーを組み合わせた旅程が作れる。海上タクシーはアプリ上で予約から決済まで可能だ。

同事業は国土交通省の新モビリティサービス推進事業の一つ。行きたかったのに、行けなかった観光地を1日に1カ所以上減らすことを目指す。

香川県の三豊市と琴平町は、海と陸の交通をつなげる。MaaS普及に向けて、トヨタ自動車などが出資するモネ・テクノロジーズ(東京・港)と8月に連携協定を結んだ。

琴平バス(香川県琴平町)が9月から運行を始めた「うどん空港シャトル」にモネの技術を活用する。高松空港、琴平、父母ケ浜と、瀬戸芸会場の発着点となる須田港をつなぐこのバスの現在地を「見える化」し、陸から海へと向かう観光客の利便性を高める。

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