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ポスト東京五輪 競技だけでない資産価値を生むには
FIFAコンサルタント 杉原海太

Tokyo2020
2019/10/16 3:00
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これから「企業×スポーツ」が重要なトピックになる気がしている。大きな理由に来年の東京五輪・パラリンピックがある。オリ・パラのおかげで「オールジャパン体制」といえるほど、日本の企業は今、いろいろな形でスポーツに投資してくれている。とてもありがたいことだが、オリ・パラが終わればその反動として「ポストオリンピック」の問題が間違いなく顕在化するだろう。

東京五輪・パラリンピック後もスポーツは企業の投資対象であり続けられるか=共同

東京五輪・パラリンピック後もスポーツは企業の投資対象であり続けられるか=共同

できることなら、オリ・パラが終わっても企業にはスポーツへの投資を続けてほしいもの。そのためには「祭りの後」も、スポーツの側が企業に対して「スポーツをこう使ったらこんなメリットが得られる」と分かりやすく説明できなければならない。

1984年ロサンゼルス大会は初の民営五輪

スポーツと企業の関わりについて、非常によく知られたモデルに「協賛」がある。その嚆矢(こうし)とされるのが、広告価値をマネタイズする、いわゆる「ロサンゼルス五輪モデル」だろう。

1964年東京五輪時はまだ、税金などの官費中心の運営が当たり前だった=共同

1964年東京五輪時はまだ、税金などの官費中心の運営が当たり前だった=共同

1984年に開催された同五輪は史上初の「民営五輪」として知られる。それまでの五輪は主に税金等の官費で運営されるのが当たり前だったが、76年モントリオール五輪で大赤字が出て、引き受け手がいなくなる悲惨なものになりかけていた。

窮状を救ったのが、後に米大リーグのコミッショナーにもなる、大会組織委員長のピーター・ユベロス氏だった。敏腕実業家だった同氏は民間から1業種につき1社の協賛企業を募り、五輪マークなどの商標使用を認める代わりに巨額の協賛金を集め、それを元手にオリンピックを開催するという当時としては画期的(純粋にアマチュアリズムを信奉する側からは裏切り的)な手法を用いて、大黒字をひねり出したのだった。

イベントの組織委員会や競技団体や球団・クラブ、つまりスポーツの側が独占的に有する権利(放送権や商標など)をメディアやスポンサー企業に与え、その見返りにテレビマネーや協賛金を手にするビジネスモデルは、スポーツの側に経営的自立をもたらした。ビッグイベントや花形スポーツでは今後も有効な手法であり続けるのだろう。

「エアウィーヴ」は東京五輪・パラリンピックのオフィシャル寝具パートナーとして、選手村で使用する寝具一式を用意する=共同

「エアウィーヴ」は東京五輪・パラリンピックのオフィシャル寝具パートナーとして、選手村で使用する寝具一式を用意する=共同

近年では企業の側に協賛金に見合った露出価値を求めるだけでなく、さまざまなアクティベーションを通じてスポーツの価値を掘り起こし、共有する動きも活発になっている。

東アジア独特の企業スポーツ

日本というか、東アジアで独特なのは「企業内スポーツ」だ。いわゆる「部活動」と呼ばれるもので、学校体育中心だった日本では高校や大学を出た後の選手の受け皿としても機能してきた。社内の士気高揚や一体感の醸成を目的に、広告宣伝活動の一環としても行われる、多分に「昭和」の匂いがする在り方である。これを令和の時代にどうバージョンアップさせていくかは日本のスポーツ界の大きな課題だと思っている。「企業内スポーツ 2.0」とでもいうか。

バレーボール「Vリーグ」は企業スポーツの伝統を色濃く残す=共同

バレーボール「Vリーグ」は企業スポーツの伝統を色濃く残す=共同

日本にはもう1つ、「企業オーナースポーツ」がある。欧米でよく見られる形なので日本独特というわけではない。オーナーの種類はさまざまで、パトロン的なお大尽の道楽に終始する形もあれば、協賛モデルとともに発展したスポーツビジネスの可能性に目をつけた欧米の投資家たちが共同オーナーになる形、あるいは国家のブランディングをパリSGやマンチェスター・シティーとともに図る中東の王族もいる。

日本の場合は企業のブランディングをプロ野球の球団やサッカークラブとともに図るケースが多い。オリックス・バファローズ、ソフトバンクホークス、DeNAベイスターズなどはその成功例といえるだろう。協賛(スポンサード)するのと、オーナーになるのとでは、目的も活動範囲もまったく異なるから投資額も違ってくる。

日本にずっといると、なかなか気づいてもらえないが、スポーツと企業の間の垣根の低さは実は日本独特である。

イングランド・プレミアリーグ、マンチェスター・シティーのオーナーは中東の王族だ=AP

イングランド・プレミアリーグ、マンチェスター・シティーのオーナーは中東の王族だ=AP

例えば、ドイツで飲料水メーカーのレッドブルがライプツィヒ近くのサッカークラブを買収した際、クラブ名に企業名をつけることは許さず、やむをえずRBライプツィヒと名乗ったくらいである(RBはRedBullではなく、RasenBallsport=芝生球技=の略ということになっている)。日本のプロ野球なら大手を振って許されることが、ドイツのサッカーでは禁じられているわけである。

ドイツはサッカークラブが企業のブランディング等に使われることに抵抗があり、日本は抵抗がない。これは、クラブスポーツのサッカーを核にサッカークラブ自体が協賛モデルを取り込みながら企業化してきたドイツと、学校の部活や実業団をスポーツの担い手として発展させてきた日本とでは文化・歴史が違うということに尽きるのだろう。もう理屈でも優劣でもなく、文化の問題だから、どちらが良い悪いでもない。それぞれの実情をポジティブに受けとめて生かせばいいということなのだろう。

そういう意味で日本のプロ野球はオーナー企業のメリットを十分に追求できる形が整っているように思う。それを特に感じるのがオーナー企業の交代である。その時代その時代で元気な企業が新しいオーナーになって球団を引き継ぎ、その時代に応じたメリットを追求できる形になっている。消費者に浸透していない企業が認知度を上げることに関してプロ野球ほど優れたソフトはないくらいだろう。

日本シリーズ進出を決めたソフトバンク。企業認知度を上げるのにプロ野球ほど優れたソフトはない=共同

日本シリーズ進出を決めたソフトバンク。企業認知度を上げるのにプロ野球ほど優れたソフトはない=共同

同じ日本にあっても、Jリーグはそこで厳しい態度を取る。1990年代に同じ横浜をホームとするマリノスにフリューゲルスが吸収され、フリューゲルス消滅というトラウマになる大事件があった。それで企業は業績が悪くなるとサッカークラブを捨てるというイメージが刷り込まれたせいだろうか。オーナーになろうとする企業に対する警戒感が必要以上に強いように思う。

スポーツにかかわる企業の新陳代謝も必要

確かに、出資企業の撤退はファンや関係者にとって衝撃ではあるが、それに代わる新しいオーナーが現れない方が事態はよほど深刻だと私は思う。オーナーが代わること自体はこの世の終わりでも何でもない。むしろ、投資できる企業の新陳代謝が促進されるという意味では健全なことかもしれない。

スポーツには多面的な価値があり、競技(ゲーム)だけではない、まだ光が当たっていなかったり、気づかれていなかったり、掘り起こされていない部分がたくさん秘められているように感じている。教育、健康、地域活性、国際化、ジェンダー等々、競技だけではない価値をマネタイズすることで社会とウィンウィンな関係を築けていけると思っている。

少子高齢化、人口減少、都市の過密過疎など社会課題先進国である日本はスポーツを使った課題解決の実験場としてふさわしい環境という気もする。

そうしたポテンシャルを発掘、開発していくには様々なタイプのビジネスマンやクリエーターが必要であり、そういうこれまではスポーツ界にいなかった人材がスポーツの世界にどんどん入ってきて発展を促していく格好になっていかないと難しいとも思っている。その観点でもスポーツに関わる企業の新陳代謝は有効だろう。

懐深く、幅広に受けとめることの重要性は、日本代表の奮戦で空前の盛り上がりを見せるラグビーのワールドカップ(W杯)を見ていても感じることである。日本代表の活躍はW杯後に立ち上げが予想されるラグビーのトップリーグ(TL)のプロ化にも大きな追い風になるのだろう。

スポーツにもサステナビリティーの視点を

ただ、私は、TLのプロ化そのものより、プロリーグからもれるチームや選手の処遇も気になっている。そして個人的にはそういうチーム、選手はプロリーグの真下の2部リーグでセミプロ的な形でやっていくのが理想のように思っている。企業から見れば企業の社会的責任(CSR)として、チームから見れば地域密着・地域貢献として活動していく。その方が持続性があると感じるのだ。目的が違うのだから昇降格制度はあえて導入しなくてもいいと思う。ただし、社会人野球などとは異なり、プロリーグと2部リーグ間の選手の移籍は可能にする。

ラグビー日本代表、福岡堅樹選手は引退後「医師を目指す」と話している

ラグビー日本代表、福岡堅樹選手は引退後「医師を目指す」と話している

プロリーグを議論するとき、私がいつも不思議に思うのは、強化に最適化したモデルばかり議論されることである。アスリートの長い人生設計に根差していないというか。セカンドキャリアはどの国のプロスポーツでも課題になるが、選手のセカンドキャリアの観点を踏まえて制度設計していけば、2部リーグでもその課題に応えうる世界的にも革新的かつサステナブルなモデルを日本ならつくれるような気がしている。

背景には労働環境の変化がある。55歳で定年だった昭和の時代ならいざ知らず、今は人生100年時代である。その長いスパンの中でとらえたら、20代から30代にかけて、ラグビーという競技に打ち込むことは、一企業人として、それほどハンディになるとは思えないのだ。むしろ、得難い経験を積んできた人間として、社会に会社に地域に貢献できるのではないだろうか。プロになるばかりが幸せになる道ではないだろう。

今もそうだが、ラグビーには高校、大学、社会人として立派にキャリア形成できるイメージがある。親御さんにも持たれている、そういうイメージを大切にすることは競技の繁栄につながる話だろう。

プロ化の議論は往々にして「猫も杓子(しゃくし)もプロにしてしまえ」になりがち。せっかくラグビーには、人材の材を財産の財にするイメージがあるのだから、プロ化でそういう面を捨て去るのはもったいないと思っている。

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