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「主将交代」に応えたリーチ 自信と誇り、8強に導く

ラグビー日本代表はワールドカップ(W杯)で初の8強入りを果たした。僅かに目標に届かなかった4年前、雪辱を果たした今回と、2大会続けて日本を率いるのがリーチ主将(東芝)である。大会中の環境の激変や葛藤を乗り越え、日本を未知の舞台に導いた。

注目度の高まりとともに、新しいスタイルの応援が次々に生まれている今大会。13日の日本―スコットランド戦でも「新作」がスタジアムに響き渡った。

「リーーーチ!」。腹の底からしぼり出したような低い声が客席にこだまする。主将がボールを持って突っ込むとき、タックルで押し込むとき。今大会に入り、自然発生的にこのコールが聞こえるようになった。

リーチがボールを持って突っ込むと「リーーーチ!」という声援がスタジアムに響き渡った

南アフリカのベテラン、ムタワリラのプレーに向けて、愛称の「ビースト」と叫ぶ応援がある。元ネタはこちらだが、2人に共通するのは、とにかくファンに愛される存在だということ。

日本の主将へのコールが大きく聞こえるようになったのは、1次リーグ2戦目のアイルランド戦から。リーチが「主将」を外れた試合だった。

ジョセフ・ヘッドコーチ(HC)はこの試合から主将の職務を分轄した。試合中の意思決定などを担当する「ゲーム主将」をラブスカフニ(クボタ)に任せ、リーチは全体を統括する「チーム主将」という立場に変えた。

初戦のリーチが本調子でなかったという見立てと、「主将のプレッシャーを減らしたい」という親心があったからだが、HCにとっても簡単な決断ではなかった。

「主将交代」はジョセフHCにとっても簡単な決断ではなかった

盟友の藤井雄一郎・日本ラグビー協会男子15人制強化委員長に、事前に相談を持ちかけている。「ワンチームというスローガンを掲げてやってきたのに、主将を変えるのはその否定にならないか」。藤井氏からの「それくらいで揺らぐチームではない」という後押しを受けての決断だった。

ただ、リーチにとっては大きな変更だった。15歳でニュージーランドから来日。他の高校の留学生に吹っ飛ばされ、半泣きになりながら強くなってきた。「日本で育ったラグビー選手」を自任し、W杯の開幕直前には「開催国の主将としてW杯に参加するのは誇り」とも話していた。

本人は決して口にしないが、内心は様々な思いがあったと想像できる。抑えていた思いがにじむ場面もあった。

第3戦、サモア戦の2日前。「リーチを主将から外すことで負担が軽減されている」というジョセフHCの発言について問われると、10秒ほど考え、答えた。「やることも同じだし、特に変わりはない」

続けて仲間のたくましさなどを褒めたうえで、最後に付け加えるように話した。「僕の負担は少し軽くなった。ちょっとね」。肩書が変わってもチームのことを考える量が減るわけではない、というのが本音だろう。

ゲーム主将を外れ、控えからの出場となったアイルランド戦。客席から響く「リーーーチ!」の声は、主将の心中を思い、活躍を熱望するファンの愛があふれ出たようだった。

声援と、内なる衝動に突き動かされたかのように、リーチは生きのいいラン、射程の長いタックルを連発した。3、4戦目とプレーはさらに良くなっている。こうした静かな反骨心を呼び起こすことも、ジョセフHCの人事の目的だったのだろう。

スコットランド戦でリーチ(下)が相手を圧倒したタックルの回数は今大会自己最高を記録した=共同

天王山のスコットランド戦、HCは3戦ぶりにリーチにゲーム主将を任せる決断を下す。「本調子に戻ってきたし、次の試合では彼が最もリーダーにふさわしい」。藤井氏は「重圧のかかる大一番で、チームを本来の形に戻し、リーチのキャプテンシーを生かしたかった」と補足する。

効果は抜群だった。試合直前、ピッチの前の通路で整列している時のリーチの顔が実に良かった。大一番への緊張感に、取り戻した自信、「主将」を担う誇り。それぞれのバランスが取れた表情は、日本の奮闘と8強入りを確信させるものがあった。

いい心持ちで試合に臨めたことは、キックオフの直前に持ち前の気配りを失っていなかったことからも分かる。ピッチに並び、傍らの少年の肩に手を置いたとき、高鳴る鼓動を察知。「緊張していますか?」と優しく声を掛けた。

最もプレッシャーがかかる一戦で、リーチは期待通りのリーダーシップを発揮した。普段よりも頻繁に円陣を組み、主将中心に声を掛け合う。

後半、「判定基準が変わった」と漏らす選手もいたように、主審の笛が厳しさを増す。スコットランドのグレーゾーンのプレーがおとがめなしとなり、密集戦でボールを奪われることが相次いだ。

リーチは主審に冷静に抗議するとともに、味方への声掛けを増やす。終盤、日本は7点差まで迫られながらも、パニックになりそうな瞬間はなし。最後まで落ち着いて逃げ切った。

主将は背中でも十分に引っ張った。ボールを持って走った回数、前進できた割合と総距離、相手を後退させたタックルの回数……。データ会社STATS社によると、リーチは各項目で自身の今大会最高を記録している。相手の激しい抵抗で過去3戦より数字を落とした選手が多いことを考えると、なおさら価値があった。

スコットランドに勝利し、喜ぶリーチ(手前)ら日本代表=共同

8強入りを決めた直後のインタビュー。主将は台風19号の被災者へのお見舞いから始めた。「台風で避難している人たち、家族がいなくなったような人たちに、僕たちの戦いで少しでも勇気を与えられたらと思います」

開催が危ぶまれた試合の実施に向け、裏で働いた人たちへの謝辞も述べたところがこの人らしかった。「スポンジで(ピッチの)水を吸ったりする人がいたおかげで試合ができたことを、感謝しています」

快勝から一夜明けた14日。外部からは厳しくもみえる決断を下した指揮官への感謝を繰り返した。「(開幕からの)この4週間、特に良かったのはジョセフHC。僕がベンチ組になったり、ダブルキャプテンにしたことも良かった」

HCの勇気ある決断と、それに応えた主将があっての歴史的な8強入りだった。次は未体験の準々決勝。目標を達成した後の安心感という、新たな敵も生まれる。2人がチームをどう導くのか。この物語にはまだ続きがある。

(谷口誠)

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