大川小の津波訴訟、遺族勝訴確定 学校現場の責任重く

東日本大震災の津波で犠牲になった宮城県石巻市立大川小学校の児童23人の遺族が、市と県に約23億円の損害賠償を求めた訴訟で、最高裁第1小法廷(山口厚裁判長)は11日までに、市と県の上告を退ける決定をした。10日付。震災前の学校の防災体制に不備があったとして、市と県に約14億3600万円の支払いを命じた二審・仙台高裁判決が確定した。
裁判官5人全員一致の結論。東日本大震災の津波被害を巡り、事前防災の不備を指摘して損害賠償を命じた司法判断が最高裁で確定するのは初めてとみられる。
二審判決は、同小の校長らには児童の安全確保のため、地域住民よりもはるかに高いレベルの防災知識や経験が求められると指摘。市のハザードマップで大川小は津波の浸水想定区域外だったが、校長らは学校の立地などを詳細に検討すれば津波被害を予見できたと判断した。
その上で、校長らは学校の実情に沿って危機管理マニュアルを改訂する義務があったのに怠ったと指摘。市教委もマニュアルの不備を是正するなどの指導を怠ったとし、賠償額を一審判決から約1千万円増額した。
二審判決などによると、大川小の児童は2011年3月11日の地震発生後、校庭に避難。その後、教員が高さ約7メートルの高台に誘導しようと移動した直後に津波が押し寄せた。同小の犠牲者は児童74人、教職員10人に上った。
犠牲となった児童23人の遺族は14年3月に提訴。「マニュアルに具体的な避難場所や方法の記載がなく、極めて不十分」などと訴えていた。一審判決は、地震発生後の教員らの対応に過失があったと認定したが、震災前の学校側の防災体制の不備は認めなかった。
津波被害を巡っては、遺族が自治体などに損害賠償を求める訴訟が複数起こされてきた。宮城県東松島市立小に通っていた女児の遺族が市に賠償を求めた訴訟では、最高裁が18年に市側の上告を退け、遺族への約2650万円の支払いを命じた判決が確定している。
学校現場の防災責任、改めて浮き彫りに
事前の備えを含め、子供を預かる教育行政に高いレベルの災害対応を求めた仙台高裁の判決が確定した。学校現場の責任の重さが改めて浮き彫りになった格好だ。大川小の犠牲を教訓に、学校現場では津波を含めた防災マニュアルの整備が進んだが、備えを形骸化させないためには、避難訓練を重ねるといった継続的な取り組みが重要になる。
文部科学省によると、東日本大震災では津波などで22都道府県の約8千校が被災した。ハザードマップなどで津波による浸水が予測されていた学校でも、4割が津波の避難訓練を行っていなかったなど、備えの甘さも浮かび上がった。
文科省は地震や津波に備えた防災マニュアルを普及させるため、手引きを12年にまとめた。災害時に児童らの引き渡しルールを保護者と決めておくよう各学校に要請したほか、震度4以下の場合は原則下校、震度5弱以上は保護者が引き取りに来るまで学校で待機、といった目安も示した。
多くの学校では各地域で想定される災害に応じたマニュアルが作成されたが、取り組みは学校ごとに温度差がある。14年の調査では津波で被災する恐れがある学校や幼稚園約2800校のうち、安全性の確保にメドが立っているのは6割にとどまった。同省は効果的な訓練事例を紹介するなどして学校の防災機能の強化を呼びかけている。