AI×画像診断、進化探る 新興のエルピクセル

2019/10/14 0:00
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人工知能(AI)が社会の隅々に使われ始め、特に命にかかわる分野での応用に期待が大きい。2014年創業のエルピクセル(東京・千代田)は、AIによる画像診断支援のソフトウエア開発で日本の先頭を走る。医師より高い精度で病変を判断する技術を持ち、脳を皮切りに大腸、肺などへと対象を広げる。医療機器などの進化をスタートアップ企業がけん引する構図だ。

医薬品などの製造・販売を認める医薬品医療機器総合機構によると、認可された国内のAI診断ソフトはまだオリンパスの内視鏡画像用のソフトしかない。大手企業も研究開発を急ぐ中、スタートアップのエルピクセルが今月、国内2番目のソフトを発売した。

脳の血管のこぶである脳動脈瘤(りゅう)を見つける「エイル アニュリズム」だ。2ミリメートルより大きい動脈瘤をさがす。価格は病院1施設につき月数十万円となる。

ソフトの開発段階ではAIが動脈瘤を見つけた割合は77.2%。医師よりおよそ10ポイント高い。医師が限られた時間で大量の画像を診断すると見逃すリスクがある。

がんをすぐ発見

これを皮切りに大腸、肺、肝臓、乳房のがんを対象にしたAIソフトを売り出したいという。

大腸がんのソフトは内視鏡での検査に使う。国立がん研究センターなどと、このほど研究を始めた。東京慈恵会医科大学の炭山和毅教授は「大腸がんによる致死率を大幅に下げられるかもしれない」と期待している。

内視鏡を大腸で動かしている最中に、AIがリアルタイムで病変をとらえ、がんである可能性を示す。オリンパスの発売済みソフトよりも治療が効率的になる。同社のソフトの場合はリアルタイムに判断するものでなく、疑わしい病変を医師が拡大撮影し、AIが分析する。

エルピクセルの技術を借りようとする企業と連携が広がる。富士フイルムはエルピクセルを国内の「AI×画像診断」分野の先行組と位置づけ、2018年に出資した。再生医療ではアステラス製薬と提携した。

画像の質を追求

エルピクセルはAIの診断精度を上げるため、画像の質を追求している。AIが病変かどうかを見極めるには、最初に病変の画像を覚えこまなければならない。

GEヘルスケア・ジャパンから転じた研究開発本部のチーフエンジニア、ショパン・アントワン氏は「専門医でも意見の分かれる診断がある」と説明する。

このため、脳動脈瘤ソフトの開発では共同研究する病院など20カ所から画像をもらった。医師や施設によって異なる画像を吟味する。

技術力を生む核となる人材については、島原佑基社長は「ITだけでなく生物学や医学もわかる人がほしい」と語る。

島原社長は東京大学大学院で細胞の画像解析などを研究し、研究室メンバー2人と同社を発足させた。その1人である朽名夏麿取締役は、大学で島原社長を指導していた。技術者中心に社員が60人に増えた今、博士号取得者は8人になった。

アルゴリズム(計算手順)を開発する袴田和巳氏は18年に入社した。東大と大阪大学では生物学と情報科学の融合分野で教壇に立っていた。「ライフサイエンステクノロジーの市場をゼロから生み出したいと思った」

島原社長は「数年以内の上場を目指す」と話す。ただ、今後の成長には幾つもハードルがある。

ジャフコの橋爪克弥氏はソフトを普及させる上で「病院へのサポート体制が問われる」と話す。病院ごとに違う業務の手順に合わせた助言のスキルや人手が必要だ。

競争環境も変わる。17年設立のAIメディカルサービス(東京・豊島)は内視鏡に特化した技術を開発中だ。アプリのようなITサービスと比べれば参入の障壁は高い分野だが、技術やサービスの違いが問われる。

世界に競合 人・カネ争奪

米調査会社マーケッツアンドマーケッツはAI画像診断に関連した医療機器・サービスの22年の世界市場を約80億ドル(8600億円)と予測した。16年の10倍にのぼる。

エルピクセルは18年、様々なソフトウエアを取り扱う米エンボイAIと提携し、開発した製品を随時扱ってもらうことにした。ただ、米国ではスタートアップ企業を中心に開発が活発で、米当局が販売を認めたAI診断ソフトは「すでに数十ある」(ジャフコ)。

日本は病院にある画像撮影装置の数が多く、医療用の画像大国といわれる。日本進出を狙う海外企業とは、国内を舞台に競うことにもなる。

国内ベンチャーキャピタルの1~6月の国内投資額は前年の同じ時期に比べて4割増えたが、医療に限ると1割増にとどまる。規制が厳しく、事業のスピードで他の分野より劣ることから日本ではお金が回りにくい。

エルピクセルはAI診断ソフトの1号を出したばかり。これから人材と資金の取り合いが激しくなる。

 ▼人工知能(AI)による画像診断 深層学習などのアルゴリズム(計算手順)で臓器のデジタル画像を分析する。コンピューター断層撮影装置(CT)、磁気共鳴画像装置(MRI)、X線撮影装置、内視鏡などのデータが対象だ。
 病変を見つける読影作業には専門医がいるが、不足している。病変を見落とすリスクもありAIの需要は大きい。画像をもとに最終的な診断をくだすのは医師で、AIは助ける役割を果たす。

(満武里奈、鈴木健二朗)

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