米の中東軽視、地域の不安定化に拍車 テロ連鎖の恐れ

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北米
2019/10/10 21:21
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シリア北東部ラス・アルアインで、トルコ軍の砲撃の間に上がった煙(10日、トルコ側から撮影)=AP

シリア北東部ラス・アルアインで、トルコ軍の砲撃の間に上がった煙(10日、トルコ側から撮影)=AP

【ワシントン=中村亮、テヘラン=岐部秀光】中東情勢が不安定化している。米軍のシリア撤収表明を受け、トルコ軍はシリア北東部のクルド人勢力への軍事行動に踏み切った。内向き志向を強めるトランプ大統領は、米国に翻弄された歴史を持つクルド勢力から距離を置く。同盟国の信頼を失いかねない米国の中東軽視は過激派組織「イスラム国」(IS)の復活や、ロシアなどの影響力拡大を招く恐れがある。

「国を持たない最大の民族」といわれるクルド人は、米国の都合に翻弄された悲劇の歴史を持つ。1980年代のイラン・イラク戦争のさなか、イラクの当時のフセイン政権はクルド人を生物化学兵器で虐殺した。イラン封じ込めを優先する米国はこれを黙認した。

91年の湾岸戦争でも米国が最終的に支援せず、クルド人はフセイン政権の報復にあった。今回のIS掃討を含めて米軍はクルド勢力に武器を供与してきたが、その連帯を断ち切るように撤収を決めた。

トルコはすかさず動いた。9日夜、同国がテロリストとみなすクルド人主体の武装勢力「シリア民主軍(SDF)」の排除を狙ってシリア北東部で地上作戦を始めた。エルドアン大統領は10日、SDFの兵士109人を殺害したと明らかにした。

「終わりなき戦争から抜け出す」。トランプ氏は9日、シリア駐留の米軍の一部を撤退させた判断を正当化した。米メディアによると、エルドアン氏は6日の電話会談でトランプ氏にシリア進軍の必要性を主張した。トランプ氏は反対したものの、最終的に「節度ある行動」を認めて米軍の撤収を決めた。SDFの司令官は「寝耳に水の決断だ」と懸念を隠さない。

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侵攻継続なら泥沼化も

トランプ氏が米軍の負担軽減にこだわるのは2020年の大統領選の成果として訴えるためだ。「米国第一」を掲げるトランプ氏は米軍の海外駐留経費を削減し、米国民が恩恵を受ける国内政策に振り向けたいとの思いがある。9日も「米国が犯した最大の誤りは中東に米軍を派遣したことだ」と強調した。

シェール革命に沸く米国は18年、45年ぶりに世界最大の原油生産国になった。今後も中東への関与を減らす方針だ。

こうしたトランプ氏の戦略は中東情勢を不安定にしかねない。シリア北部には元ISなど過激派を収容する30カ所ほどの施設に、約1万1000人の戦闘員らが拘束されている。施設を管理するクルド勢力がトルコの攻撃に対抗しながら、元IS戦闘員の拘束を続けるのは困難が伴う。

トルコはシリア北部に「安全地帯」を設け、トルコのシリア難民を押し戻す狙いがある。将来を見通せない難民がシリア北部で過激思想に染まり、テロの連鎖が起きる可能性も否定できない。

米国のシリア撤収に強い懸念を抱くのが、トランプ政権と蜜月関係を築くサウジアラビアだ。米国の関与が薄れれば中東の盟主としてのサウジの地位が揺らぐ。

イランが民兵を通じてシリアへの影響力を拡大すれば、サウジとの対立が深まるのは必至だ。トランプ氏の内政重視が混迷を招き、中東が再び世界の火薬庫になるリスクが高まっている。

■侵攻継続なら泥沼化も

【イスタンブール=木寺もも子】隣国のシリア北東部に軍事攻撃を加えたトルコの狙いは、同国のエルドアン政権がテロリストとみなすクルド人武装勢力「シリア民主軍(SDF)」を一掃し、この地域に「安全地帯」を設けることだ。ここにトルコからシリア難民を移し、難民排除の機運を高めるようになった有権者の歓心を買う考えだ。

トルコ軍はシリア側のテルアビヤド、ラス・アルアインへ空爆や地上部隊の進攻を仕掛けた。当面の目標は120キロメートルに渡るこれら2地域間の制圧だ。

もっともトルコが構想する「安全地帯」は国境に沿うシリア側の長さ約480キロメートル、幅30キロメートルに及ぶ。トルコの目的は敵対するクルド人勢力をシリア国境から遠ざけ、トルコにいる大量のシリア難民を安全地帯に移住させることにある。このため安全地帯の全域の制圧を目指す可能性もあるが、戦闘は長期化しかねない。

さらにトルコが「安全地帯」を越えてシリア領に深く侵攻すれば、事態の泥沼化もありうる。米軍の支援を得られなくなったSDFはロシアに接近している。敵対していたシリアのアサド政権とも和解する事態になれば、より大きな勢力を巻き込んでシリア情勢が悪化する恐れがある。

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